【ファルクリース】
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ファルクリースは、スカイリムの最南に位置する町である。
ホワイト峠を挟み、シロディールとスカイリムとの国境の町でもある為か、しばしば山賊や盗賊などのターゲットにされ、
更にはリーチ地方からリフト地方を跨ぐ為、帝国とストームクロークによる小競り合いが頻繁に行われていた。
当然ながら、無関係な人々の被害が多発していた場所でもある。
この歴史は何も内戦に限った事ではなく、ファルクリースは戦乱の歴史を何度も繰り返してきた場所でもある。
故にここには、スカイリムでも最大級の墓地群が密集している。
その殆どは、幼い子供達の墓で埋め尽くされていた。
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普段は木々に囲まれた閑静な町ではあるが、主な産業は林業であり、大半の者はこれによって収支としている。
宿屋や鍛冶屋、それに雑貨店など、必要最低限の物は揃っているモノの、地域的な問題の為か旅人や行商達もあまり近寄ろうとはしない。
同じ国境の街でもあるリフテンとは、雲泥の差であり、今では忘れ去られたかのように、ひっそりとしていしまっていた。
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唯一の救いは、停戦協定の際、ナディアがドーンスターとファルクリースの交換を提示し、それを帝国側が飲んでくれた事だった。
おかげで帝国からの物資の流入は無くなってしまったものの、それを狙って集まってくる輩が極端に減ったのである。
そしてナディアが、反乱側に着いてくれた事が、周囲のならず者達の目を逸らしてくれる”見えない抑止力”になっていた。

それでも・・・人々の心が晴れるような事はなかった・・・



実はナディアは、ここで一つの事件を起こしていた。
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現在首長を務めているのは、”デンジェール”という高齢のノルドである。
彼は、ウルフリックの粗暴で野心的な面は嫌っていたが、彼のやっている事には理解を示してしてた。
反乱鎮圧の為に帝国軍がこの地に足を踏み入れると、デンジェールは即座に降伏してしまっていた。
自身の信仰や信念よりも、住民達の命を優先したと言われているが、帝国が彼を罠にハメたという噂もあった。
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代わりに椅子に座ったのが”シドゲイル”という男だった。
実は彼はデンジェールの甥っ子である。
移り気の多い性格で、酒と女を好み、町の金庫を私事によって平気で費やしてしまう放蕩者だった。
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故に民衆からは、あまりいい声は上がってこず、デンジェールの復帰を望む者が後を絶たなかった。
だが彼は帝国の目を気にし、自ら復帰する事を望まず、空しい隠遁生活を送っていたのだが・・・
100
そんな時、ナディア達が姿を現したのである。
シドゲイルは、彼女がドラゴンボーンだという事を知ると、すぐに抱き込みに掛かろうと計った。
【オーク達の襲撃に悩まされているから助けて欲しい】という、嘘の文面を送り付け、誘い出したのである。
101
ナディア達が首長の長屋に到着すると、そこにシドゲイルの姿は無く、代わりに”ネンヤ”というハイエルフの執政が対応した。
一緒に着いてきたリディアとイオナ、そしてジョディスは、その対応に一瞬カチンと来たのだが、ナディアが何も言わず依頼を受けたので、その時は我慢した。
102
翌朝ナディア達は、オークが立て籠るというバイルガルチ鉱山に行き、山賊達の一掃を始めた。
バイルガルチに屯巣(たむろ)しているオークの数は、相当数おり、ナディア達4人に対して、向こうは数十人という激しい戦闘になった。
102-1
鬼のような形相と緑色の肌、厳しい戒律と肉体労働によって鍛えられた体。
ナディア達よりも、倍近くありそうな背丈の者ばかりで、オーク一人一人がかなりの強敵だった。
103
戦いとは目線の高さが違うだけで、大きく変わってくる。
ホワイトランホールドでは、新進気鋭として名が売れていたにも関わらず、今まで経験した事のない相手に、流石の彼女達もかなり手こずった。
103-1
大概の者は負傷し、膝を着くと、力量の違いを知ってか、命乞いをしてくる。
だがオークは勇敢なのか、無謀なのかは分からないが、満身創痍でも弱音一つ吐かずに襲い掛かってくるのである。
104
オークという種族は ”マラキャス”というデイドラの王子を崇拝しており、マラキャスは愚かで、力のない者を嫌っていた。
それが為だったのかもしれない。
105
普段なら最悪でも気絶程度で勘弁していたのだが、どうしても選択肢が無かった。
106
それでも山賊長の生け捕りに成功したのである。
彼の話を聞いた後、四人の心情は複雑になり、帰りの道すがらは、まともな会話一つ無く、決していい気分にはなれなかった。
108
バイルガルチ鉱山は、オーク達が好んで使う【オリハルコン】が大量に採れる。
オリハルコンで作った装身具の殆どは、大概は近くの町に卸すのだが、時にはフォースウォーンとの取引に使っていた。
彼らには、奇妙な呪術に長けたバグレイブンがいるため、主に薬品との取引に使っていたのである。
最初は必要最低限の取引だったのだが、ある時分から状況が一転した。
109
”マルカルス事件”である。
この事件の後、チリジリになったフォースウォーン達は、リーチのあちこちに野営地を設けるようになった。
彼らはオーク達の力を最大限に利用し、次なる反撃に備えるようになっていったのである。
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この概要はこうである。
マルカルスにスパイとして潜り込ませたネポスが、シルバー・ブラッド家の銀を横領し、この銀を各地のフォースウォーンが手にする。
彼らは、その銀を利用しオーク達と取引をしていたのである。
オーク達はその銀を使い、物資を調達していたのだ。
111
この件に関しては、リーチ、ホワイトランそしてファルクリース各地の首長達も、オーク達の不穏な動きを耳にはしていた。、
しかし既にウルフリックが、帝国に対し反旗を翻していた為、そこまで手が回らないというのが彼らの言い分になっていた。
おかげでフォースウォーン達は野放し状態だったため、反撃の力をドンドン増していったのである。
112
それというのも、バイルガルチという場所は、元来ホワイトランの領地に組み込まれていた。
これはホワイトランとリーチを行き来する為の”主要幹線道路の所有権”の問題が絡んでいる。
ここにファルクリースを加えると、道路が三つに分断されてしまうという懸念から、
代々のファルクリースの首長は、この問題に関わろうとしなかった。
しかもこの場所は、殆ど領地境に接している為、どの主要都市からも目が行き届かない。
なので、誰が所有しているのかという点においては、民衆の間で有耶無耶になっており、暗黙のデルタ扱いになっていた。
つまりは殆どグレーゾーンと言う訳である。
113
シドゲイルはこの点に目を付けた。
114
帝国がスカイリムに介入し、ファルクリースを帝国の傘下に収めてから後、シドゲイルは一通の手紙をソリチュードに送った。
”バイルガルチ鉱山をファルクリースの領地として認めてくれ”という内容である。
これが偶然の出来事だったのかはわからないが、この頃のテュリウスは、ホワイトランのバルグルーフをどう説き伏せるかで悩んでいた。
なので宙ぶらりん状態のバイルガルチは、すんなりファルクリースの領地として認められたのである。
バルグルーフを追い詰める材料になるからだ。
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シドゲイルは、バイルガルチ鉱山で働くオーク達の仕事を公的に認める代わりに、税金と称した高額な賄賂を要求したのである。
だが帝国の目が厳しくなってくると、オーク達も仕事がやり難くなり、シドゲイルに泣きついてきた。
何もないよりはという事で、初めのうちは彼も容認していたのだが、徐々に身入り少なくなってくると、その身可愛さで切る事にしたのである。
誰かに手を汚させ、適当な爵位を与えてやった方が、ずっと安く済んだからだ。
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フォースウォーンがリーチ地域で問題になっている事は、ナディアも知っていたのだが、何故シドゲイルがこんな悪どいマネをするのか?
その理由を問いただそうと、討伐から戻って来るなり首長の長屋を訪れた。
だが肝心のシドゲイルは、またも不在で、代わりに執政のネンヤが対応するというお粗末さだった。
117
問い詰められたネンヤも『自分には何も言えない』の一点張りで、慌ててシドゲイルを探させた。
ほどなくして彼が姿を現す。
まだ昼間だというのに、顔を赤らめさせ、酒の臭いを漂わせ、明らかに酩酊していたのである。
118
玉座に腰かけた彼は、ナディアに言う。

シドゲイル
『思った以上の戦果を挙げてくれたようだなぁ~
流石はドラゴンボ~ンだ^^
さっそくだが褒美を取らせよう~^^』

ナディア
『お前に聞きたい事があるのだ』

彼女は間髪入れず口にした。

シドゲイル
『首長を”お前”呼ばわりとはな・・・
まぁいい、今日はいい酒が飲めたからな。
二、三質問を許そう^^』

119
ナディア
『ファルクリースじゃ、昼間から酒を飲んで、仕事をサボっている人間なんて誰もいないのだ。
なのになんでお前は酔っぱらってるのだ?
120
シドゲイル
『首長の権限というやつだ。
お前の気にすることじゃぁない』

121
ナディア
『スカルドだってそんな事しないのだっ!』

シドゲイル
『ふん、あんな妄想っ気の強い、死にぞこないのジジイと、一緒にして欲しくないものだなw』
122
カチンッ!ときたナディアは、右足で近くにあった小テーブルを思い切り蹴とばした。
123
従士のヘルヴァルドを始め、数名の衛兵達がナディア達を取り囲むように剣を構え、空気が忽ち殺気を孕み、張り詰めた緊張感で埋め尽くされた。
リディアやイオナ、ジョディスも、ナディアを庇うように剣を構える。
124
いきなりの出来事だったのでシドゲイルは驚いてしまい、酔いが一気に醒めてしまった。
こめかみに一筋の汗を垂らし、悔しさに気付かれまいと下からナディアを睨みつけた。
粗ぶる本心をひた隠そうと、必死に堪える。
125
シドゲイル
『はははは、おやおや、ドラゴンボーンというのは随分と粗暴な娘なんだなぁ?』

ナディア
『お前の事は全部、捕らえたオークに聞いた。
フォースウォーンがリーチで問題になっているのに、お前はそれに加担するような真似をしているらしいな?』

シドゲイル
『加担?言っている事の意味がわからんが・・・』
125-1
リディア
『バイルガルチは、元々ホワイトランの鉱山よっ!
なのに、あなたがそこから賄賂を掠め取っているって聞いたわ!?』

シドゲイル
『あぁ~そういう事か・・・
あの場所は、ソリチュードに直接掛け合って、正式にファルクリースの地域に認めてもらっている。
徴収しているのは、ファルクリースに住む住民からの正式な税金だ。
なので賄賂などではない』
125-2
イオナ
『その住民達が、フォースウォーンと取引をしているそうじゃない!?』

シドゲイル
『なるほど、それで”加担している”という訳か。
残念ながらそれは初耳だ。
仮にそれが本当だとしても、私が彼らから税金を取っているならば、それはそれでフォースウォーンの力を削いでいる事にはならないかな?』
125-3
ナディア
『お前から貰った手紙には、”町がオークに襲われている”と書いてあったのだ。
だがオーク達は、一度も襲撃をしたことが無いと言っているのだ』

シドゲイル
『町で問題が起これば、首長はそれに対処せねばなるまい。
今回は住民からの訴えがあったからなのだが・・・我々の手には余ると判断したために、有名な英雄に手を貸してもらおうと思っただけだよ。
それに、”薄汚いオーク”の話など、まともに耳を貸さぬ事だ。
ろくな結果にはならんぞ

125-4

リディア
『ナディア、帰りましょっ!!
これ以上話をしても、胸糞悪いだけよっ!』

シドゲイルの態度に呆れたリディアが声を掛ける。

ナディア
『こいつはナディアの最初の質問に答えてないのだ』
125-5
ヘルヴァルド
『貴様!!無礼だぞっ!!下がれっ!!』

従士のヘルヴァルドが、武器を突きつけ怒鳴る。
だがナディアはピクリともせず、冷たい視線を動かしただけだった。
125-6
シドゲイル
『だ、だから、それは首長の権限だと言っただろう?
お前の気にする事ではない』

シドゲイルはナディアの冷たい威圧を感じてが、少々言葉に焦りが出てしまった。
125-7
ナディア
『スカルドは、”王が国の金庫を好きなだけ使ったら国が崩壊する”と言っていたのだ。
何故なら、”国は民を以て元を成す”からなのだ。
お前の放蕩ぶりを見ると、ファルクリースの良民を食い物にしているようにしか見えないのだ!
126
シドゲイル
『ひ、人聞きの悪い事を言わないでほしいモノだな。
まるで私が、良民達の税金を横領しているとでも言いたげな・・・』

彼は喉に詰まった唾を飲み込んだ。

シドゲイル
『いったい何の証拠があって、そんな事を言うのかね?』
127
ナディア
『お前を始末してしまえば、簡単に答えが出るのだ』

ナディアの目から殺気が放たれる。
128
シドゲイル
『帝国を敵に回すような発言は、控えた方が身の為だぞ?』

シドゲイルは、自分が追い詰められている予感を感じた。
129
周囲はそれとは別に、ピンッと空気が張り詰め、一触即発となる。
しばしの間、重苦しい沈黙が続いた。
130
ナディア
”熊の威を借る狐”とは、お前の事を言うのだ』

ヘルヴァルド
『おいっ!!いい加減にしろっ!!』

ヘルヴァルドの怒声など、ナディアの耳には全く届いていなかった。

131

ナディア
『帰るぞ』

そのまま長屋を出て行こうとした。
132
だが一連の出来事を見ていた衛兵達が、ナディアの進路を塞ぐ。

ファルクリース衛兵
『止まれっ!!お前は・・・』
133
ナディア
『ドケェ―――ッ!!!』

ナディアのシャウトまがいの怒声に、壁を作ったはずの衛兵達が吹飛ばされた。
真横で見ていた者も、あまりに一瞬の出来事で硬直してしまっていた。




135
この約2か月の後、停戦協定が結ばれた。
デンジェールが首長に復帰すると、シドゲイルは有無を言わさず牢に閉じ込められた。
住民たちは、ようやく安寧を手に入れる事ができたと喜んでいたのだが・・・
136
ただでさえ帝国に対する警戒心が強く、さらに甥の不始末が重なったせいか、デンジェールは心を病んでしまい、次第に被害妄想が強くなっていった。





【ホワイトウォッチ反乱軍の陣】

137
ホワイトラン攻城戦、前夜の事である。
138
ジョディス
はぁ?・・・私にファルクリースの援軍に行ってくれって・・・どういう事よ?』
139
ポエット
『何か問題でもあるんですか?』

ポエットは不思議そうにジョディスを見つめる。
140
ジョディス
『も、問題って・・・わ、私は、そり、ソリチュード出身よっ?
そりゃあ、ナディアと行った事はあるけど、あの辺について・・・私は疎いわ・・・
リディアやイオナならわかるけど、ファルクリースから一番遠い出身なのに、どうやって守れて言うのよ!?
それに首長のデンジェールは、頭がボケてるって有名だし、帝国に対して異常なほど警戒する男よ!
ソリチュードに居たって言うだけで・・・毛嫌いされるわ・・・』

ジョディスは明らかに挙動がおかしく、かなり焦り気味な口調だった。
141
ポエット
『テクラさんがいますから大丈夫ですよ^^』

ジョディス
『テクラって誰よ?』

ポエット
『デンジェール首長の新しい執政です^^』
142
ジョディスは額に汗しながら、不満げに明後日の方に視線を向けている。

リディア
『???・・・ジョディスぅ~何かあるのぉ?』

リディアも、嘗てのファルクリースでの出来事を知っていたのだが、彼女のそれは、”別の何か”を感じ取るに十分だった。
143
ジョディス
『べっ、別に何もないわよっ!!』
144
突発的に怒鳴る。
ポエットとリディアは顔を見合わせた。
145
ジョディス
『と、兎に角、私はファルクリースだけは嫌なのっ!!
あそこは、私の肌に合わないわっ!!』

駄々をこねるジョディスに、リディアは呆れ気味だった。
146
リディア
『首長が変わったんだから、前のファルクリースとは違うはずよ?
あなたがダメなら、作戦を練り直さないといけないわ。
でも、そうそう簡単には変えられないのよ。
ちゃんと理由を説明しないきゃダメじゃない?』
147
ジョディス
『私じゃなくて、カルダーじゃダメなの?』

ポエット
『あぁ~私の口から言うのもなんですが、カルダーさんだと多分、デンジェール首長とは馬が合わないと思って^^;
それに男性だから、女性の方が都合がいいと思うんですよね^^;』
148
ジョディス
『だったらリディアやイオナだって良いじゃないのよ!?
だいだい何で私なのよっ!?』
150
ポエット
ソリチュード出身だからです^^』

ポエットは満面の笑みで口にした。
151
リディア
-また始まったわ・・・-

ジョディス
『もおっ!意味分かんないっ!?』
152
ジョディスは都会育ちのせいか、普段から無駄な注文が多く、少々我ままなところがあった。
リディアは、ナディアに迷惑が掛からなければ程度で我慢していたが、イオナとはよく衝突していたのである。
最近は落ち着いてきていたと思っていたのだが・・・
153
リディア
『ソリチュード出身って、どういう事?』

ジョディスが問いただす前に、リディアが先に口にした。

ポエット
『ジョディスさんは、エリシフ首長に、直接ナディアの従者に任命されたんですよね?
となれば、帝国の事を知っているナディアの従者って事になります』
154
ジョディス
『まるで帝国のスパイみたいじゃない・・・』

ポエット
『でも、ナディアの名前がジョディスさんに着いている以上、デンジェール首長はナディアを優先せざる得ないはずです。
ナディアはファルクリースの従士にも任命されていますから^^
それに、今現在即座に対応できるのは、ホワイトランだけです。
首長がこれを拒否すれば、ファルクリースは誰も助けてくれません^^;』
155
リディア
『ちょっと足元見ている感じはするけど・・・
つまり、帝国の事を知っている人物が、ナディアの部下にいるって事は、それだけでファルクリースの強みになる訳ね・・・』

ポエット
『そういう事です^^』
156
リディア
『となると、ジョディスは適任って訳だw』

ジョディス
『だったらアルギスだって適任じゃない!!』
157
ポエット
『リーチ地方は・・・フォースウォーンなどの独自の文化が根付いている分、帝国とはあまり深い縁は無いかと・・・』

アルギスは、マルカルスでナディアの従者に任命された人物だった。
158
ジョディス
『うぐぐぐ・・・』

リディア
『さぁ、ジョディス。次はあなたの番よw』
160
ジョディスはサッと立ち上がると、外にいる兵士達に適当な指示を与えて追い払った。
160-1
するとテントの入口のシートを降ろし、外からの視界を完全に遮った。
”誰にも見聞きされたくない”という態度が顕著に表れていた。

そして二人の前で視線を逸らしながら、ややも落ち着かない様子で話始めた。




161
突然!
ポエットの叫び声が、テントの外に木霊する・・・
161-1
ジョディス
『シ―――――ッ!!!
ちょっ!ポエット!!声が大きいわよ!!』
162
リディア
『あぁ~・・・バイルガルチに向かう朝、妙に早起きしていたのは、そういう事だったのね・・・』

”こいつよく覚えてるな”とジョディスは心中で呟いた。

ジョディス
『だって!
知らなかったのよっ!!
まさかあいつが、その・・・”シドゲイル”だったなんて!!』
163
リディア
『あんた、名前も知らない相手とっ!!』
164
ジョディス
『その、気が合って、つい通飲しちゃって・・・
それに、まぁその、なかなかの男前だったし・・・』

リディア
『はぁ~・・・』

リディアは呆れてモノが言えなかった。
165
ジョディス
『だ、誰だってあるでしょ!?
一夜限りのアバンチュールってやつよ!!』

リディア
何が一夜限りよっ!!ちゃんと今になって・・・』
166
リディア
『まさか・・・あんた・・・』

リディアは気付いたように、ジョディスのお腹に視線が行った。
167
ジョディス
『し、してないわよ!!あれから随分経ってるし!大丈夫よ!!』
168
リディア
『あ~もぉおおおお!!
信じられないわっ!!!』
169
この後、リディアとジョディスの不毛な言い争が、小一時間続く事になった。
170
彼女は、シドゲイルがデンジェールの甥だという事を後々になって知り、”恥ずかしくて行きたいくない”という事だった。
どのみち彼は、犯罪人としてウィンターホールドの北にある”悪寒”という氷の洞窟に護送され閉じ込められている。
171
執政のネンヤは姿を消し、従士のヘルヴァルドもファルクリースを去っていた。
そして彼らに与した者達は、皆ファルクリースから姿を消し、町は元の静けさを取り戻していた。
172
なので”当時の関係者はいないはず”だとポエットは説き、なんとか彼女を向かわせる事ができたのだ。



しかし、ファルクリースに着いた途端にトラブルは発生した。
173
デンジェール
『100人じゃと!?
たった100人しかホワイトランは援軍を寄越せんのか!?』

ジョディス
『たったって・・・これでも精一杯の人数なのよ?』
174
デンジェール
『ふざけるなっ!!
ここは国境の町なんじゃぞ!!
すぐ目の前に帝国軍が迫って来ているのじゃ!!』

ジョディス
『えっ!?帝国軍が来ているの!?』

ジョディスは、自分もそんな話は聞いていたなかったので少々驚いた。
175
デンジェール
『うるさいっ!!
聞けばロリクステッドに駐留している帝国軍は、6000だと言うではないか!?
6000の帝国兵と、山越えしてきた帝国兵に、は、は、はぁ~挟み撃ちされたら、ファルクリースは終わりじゃっ!!』

デンジェールの猜疑心は更に過熱しており、有りもしない事をのべつ幕無しに並べ立てた。
言いたい事を言い切ったのか、彼は肩で息をしていた。
176
テクラが慌てて駆け寄る。

テクラ
『シロディールから帝国軍は来ていないわ、落ち着いてデンジェール・・・』

デンジェール
『バカもん!!これが落ち着いていられるかっ!!』
177
すると彼は、激しく咳払いを繰り返し、椅子に座りながら前のめりになってしまった。
テクラが彼に駆け寄り、背中をさする。
178
そして近くにいた侍者に連れられ、寝室へと姿を消して行った。
ジョディスは、一連の出来事に眉を顰めるしかなかった。
179
寝室に入るデンジェールを確認すると、テクラはおもむろに口を開いた。

テクラ
『ジョディスさん、これは本当にポエットさんの作戦なの?』

ジョディス
『ええ、そうよ』
180
テクラ
『これじゃあんまりだわ・・・
ウィンドヘルムでは領主制度を掲げ、ファルクリースの危機の時は、ホワイトランからの援軍を約束してくれたのよ!
ここには駐屯兵も少ないというのに、たった100人でどうやってこの町を守るつもりなのよ?』(第十一話EP3)

ジョディスにも、デンジェールやテクラの不安が、解らないわけでもなかった。
とはいえ、あまりにもいきなりの出来事だったので、少々面を喰らってしまった。
181
テクラと言う人は、元々デンジェールの侍女をしていた女性であり、身の回りの世話をしていた人物である。
甥が牢に繋がれ、他人を信用しなくなったデンジェールにとって、唯一心の拠り所にしていた人物でもあった。
とはいえ気弱な面は変っておらず、執政という職務に就けた時は内心喜んでいたモノの、思った以上の重責からか、彼女自身もプレッシャーに押し潰されそうだった。
ウィンドヘルムから派遣された護衛役のソリッグには、常駐の従士を兼任してもらっていたのだが、人手不足というのもファルクリースの問題の一つになっていた。
182
だが、”やっぱり無理でした”で済ます訳にもいかないのも事実である。
ジョディスは腹をくくると、おもむろに口を開いた。

ジョディス
『ポエットはちゃんと援軍を寄越したじゃない。
約束は破ってないわ』

テクラ
『でも、たった100人よっ!!』
183
ジョディスは、自分を落ち着かせるよう一呼吸置いた。

ジョディス
『ホワイトランじゃ、明らかに反乱軍の方が劣勢なのに、みんな勇敢に戦ってる。
なのにアンタ達は、姿も見せていない帝国に怯えてるなんて、どうかしてるんじゃないの?』

テクラは思い出したかのように悟り、思わず恥ずかしくなってしまった。
184
ジョディス
『私も含めて100人の兵士達は、死ぬ為にここに来たんじゃないわ』

極々”当たり前の事”を話す。
185
ジョディス
『私はソリチュード出身のナディアの従者よ。
だから帝国を知っている。
あなた達にとって、一番の武器になるはずよ』
186
テクラは一瞬驚いた顔を見せた。

ジョディス
『ポエットには、100人の兵を10000の兵にしろって頼まれてるわ』

彼女はワザと極端な数字を上げた。
187
ジョディス
『今まであの子の作戦が、外れた事は一度も無い。
ファルクリースを帝国に渡さないためにも、あなた達も手伝ってよ!
そうすれば帝国の手に落ちる事は無いはずよ!』

ジョディスの”一喝”に、テクラも少し勇気づけられた。
188
ポエットがジョディスをファルクリースに派遣したのには、ソリチュード出身という事と、もう一つ別の理由があった。
それは、”物事の要点”を掴む事に非常に長けていたからである。(第八話・第十一話EP1)
189
デンジェールが疑心暗鬼に苛まれている事は、リディアやウィグナーからも聞いていた。
なので、彼よりも傍にいる”テクラ”が一番頼りになるだろうと踏んだ。
だが彼女が気弱な性格である事は、ウィンドヘルムでのやりとりでポエットも感づいていた。
なので、余計な事をグチグチと話すよりも、要点を話した方が動くと考えたのである。
189-1
お酒を飲むとだらしが無いが、ジョディスは見事テクラを説得する事ができた。






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<備考>

◎時間軸表

A

SOSでは、時間軸を行ったり来たりしているのですが、自分でもわかるように、こんな風に時間軸を作ったりしています。
その日、その時何が起こったのか?
ここにこんなお話しを入れると、時間的に無理があったり、どうも矛盾しているなぁ~・・・などなど・・・
なので一話一話が、だいたい同じ時間帯で別な場所という形で作られています。
一応考えてやっております^^;
複雑なお話しになってくると、書き手も大変なんですが、読み手の方はもっと意味がわからないんじゃないかと思いまして(; ^ω^)
今回は上記の赤枠の部分のお話になっております^^
ただ、最後のSSの所だけ、ネタバレ防止の為に書き込んでいませんw

◎ソーナーの焦り
ソーナーが、イグマンドとラエレクの首を取り損ねた事に対して焦っているのは、
この後に来るはずの帝国軍に、二人が死んだという”証拠”が無いと、
帝国軍は正式にソーナーを首長として認めてくれないかもしれないからです。

◎ソーンヴァー・シルバー・ブラッド
ゲーム内ではあまり目立った存在ではありませんが、イグマンドが首長をしている間は、
玉座の前の階段を降りた所にいつも立っており、彼はそこから殆ど動く事はありません。

内戦をストクロで終えた場合、彼が首長となります。
ソーンヴァーはシルバー・ブラッド家の長男であり、事実上のトップという設定ですが、嘗てはエルフとの大戦にも参戦しており、帝国軍人の一人でした。
彼の人柄については、アンダーストーン砦内で働く鍛冶屋のオーク、”モス・グロ・バゴル”から聞く事ができます。
因みにイグマンドの父であるホルフディルとは、旧知の仲という設定にさせました。

イグマンドの父(ホルフディル)
ホルフディルというキャラは、本編のスカイリムには登場しません。
イグマンドから、自分の父親の盾を探してくれという、クエストのみに名前が出てくるだけです。

SOSでは【Elder Scrolls Wiki】に書かれている【ホルフディルの歴史】を参考に創作しました。
なので、彼が死後に遺言を残したという件は創作しています。


彼の創作については、実は既に出来上がっているのですが、なにぶん本人が登場しないので現在どう掲載するか思案中です。
その内『SOS Character』にて載せていこうと思うのですが・・・どうしようかな(´Д`)

創作エピソードの中には、嘗てファリーンは孤児であり、彼女を拾って育てたのがホルフディルという設定にしています。

◎ドゥーマー・ヒュペリオン
今回は、ドゥーマーの研究者らしく『カルセルモが隠していた秘密兵器』という設定で使わせていただきました。

このMODはなかなかカッコイイです^^v
装備すると重量制限が増え、高いジャンプに素早い動き、蒸気をブシュブシュ言わせながら猛ダッシュできますw
戦闘はやや慣れが必要だと思いますが、なかなか楽しめるMODだと思います^^
Space Wiking Dwemer Exoskeleton

因みに由来や歴史については、MOD内で表示されるものを使わせてもらっています。
ヒュペリオンはオートマトンの原型であり、年代からいえばオートマトンよりも、さらに昔に作られた物と設定されています。

◎符呪
スカイリムにあるギミックの一つです。
使用には魂の入った魂石(こんせき)と解呪された能力が必要になります。
今回は『水中呼吸』という能力を兜に符呪させました。
この能力は実際にスカイリムにあります。

◎クヴァッチの英雄(Champion of Cyrodiil)
前作【Elder Scrolls Ⅳ Oblivion】におけるプレイヤーキャラクターの事です。

◎エイドラとデイドラについて・・・
TESシリーズには8or9のエイドラ神と、16のデイドラの王子が明らかになっています。

エイドラとは、所謂『創造神』と呼ばれている存在です。
タムリエルとは、二ルンと呼ばれる惑星にある大陸の一つです。
その二ルンを内包するのが、ムンダスと言う宇宙であり、これらを創造したのがエイドラと呼ばれる存在とされています。
彼らがタムリエルに干渉する事はあまり無いとされていますが、中にはよく干渉する者もいます。
またエイドラには『死』という概念があるのですが、定命の者の『死』とは意味が違うそうです。

デイドラとは神に近い存在と言われていますが、あまり良い印象の無い存在でもある為、
場合によっては『悪』の部類に入るのでは?という者もいます。
主にムンダスの創造に反対した者の事を言うそうですが、エイドラからデイドラに変わった者もいます。
デイドラは不死の存在です。
一度死んでも、オブリビオンで再び復活を遂げます。

今回は2人のエイドラと2人のデイドラの王子を簡単に説明をしていこうと思います。

●アカトッシュ(エイドラ)
時を司る竜神であり、九大神の長とされています。
彼はタムリエルに度々干渉しています。

マーティン・セプティムが、メイルーンズ・デイゴンをオブリビオンに送り返す時、彼はアカトッシュの力を借り、
自らが竜の姿となりデイゴンと戦いました。
最後は石像となり、デイドラの門を塞いだ人物です。
因みにスカイリムのラスボスである”邪竜アルドゥイン”は、アカトッシュが創造した最高傑作とされています。

●アーケイ(エイドラ)
生と死、輪廻を司る神であり、不自然な生き物にとって厄介な存在と位置付けられています。
今作スカイリムでも、死を司る行事、施設などにおいては必ずと言っていいほど、アーケイの司祭が登場します。
また墓がある町には、大抵アーケイの祭壇が設置されています。

●メイルーンズ・デイゴン(デイドラ)
破壊や変革を司るデイドラロード。
スカイリムの時代から遡る事、およそ200年前。
シロディールにて『深淵の暁』と呼ばれる教団が呼び寄せたデイドラ。
タムリエル侵攻好むデイドラの一人です。

●マラキャス(デイドラ)
オーク達が好んで信仰する神。
拒絶されし者、追放されし者の後見人でもある。
オークという種族は、その見た目から差別をする者もいる。
なので迫害の歴史を歩んできた種族でもある。
そういう種族の後見人というくらいなので、面倒見が非常に良い。

◎サルモールによる同種族の大虐殺
これについては、スカイリムの書籍『高まる脅威』に書かれています。
所謂エルフの純血種でない者や、サルモールに批判的なエルフ達を粛清したという事です。

◎バイルガルチ鉱山
バイルガルチ鉱山は、本編ではファルクリースに属しています。
SOSではこういう理由で、元々はホワイトランに属していたという事にしています。

◎シドゲイル
首長職に就いている者の中で、若い世代に入る首長。
伯父に当たるデンジェールの話では、町の金庫を平気で費やし、首長の座でさえ帝国に渡してしまう人物なんだそうです。
プレイヤーがドラゴンボーンだと判明すると、一通の手紙を送り付けてきて、ファルクリースでシドゲイルと話すとクエストが始まります。
実はゲーム内では、バイルガルチ鉱山ではなく、リバーウッド付近の『エンバーシャドー鉱山』が舞台となっています。
シドゲイルは、この鉱山に住みついている山賊と取引をし、小銭を稼いでいましたが、そろそろ縁を切りたいという事でプレイヤーに依頼してきます。
ここでの出来事を創作し、彼を帝国の犬らしく、嫌な奴的に描いてみました。
実際、彼のセリフを見ても、首長職の乱用が見られ、あまりいい印象のある首長とは言い難い存在だと思われます。

B

ちなみに今回彼が来ている服は、『Velvet Robes and Cloaks』というMODを使用させていただきました。
高級で王族って感じが出ていてNadiaは結構気にいってます^^

◎熊の威を借る狐
本来は”虎の威を借る狐”ですw
スカイリムには虎がいないので、ワザと文字りましたw
サーベルキャットがその部類に入るかどうかは、定かではありませんが・・・

◎ナディアとスカルド
ナディアとスカルドの関係については、『SOS Character』にて執筆済みです。
人間的には決して褒められるものではありませんが、35年間ドーンスターを仕切ってきたという経験を持っている人物です。
父親のいないナディアにとって、スカルドはそういう存在として近かったのかもしれません。
若輩者のシドゲイルに馬鹿にされたという事で、頭に来たという設定です。

◎悪寒(あっかん?)
ウィンターホールドで犯罪を犯し、牢に入れられると、町から北にある”悪寒”という氷の牢屋に閉じ込められます。
ここには人間の看守はいません。
代わりに”氷の精霊”が24時間体制で見張りをしています。
脱獄しようものなら、外にも複数の彼らが巡回しており、逃げるには相当な腕っぷしと脚力が必要になります。
さらに加えて、恐らく相当寒いと思われます。
スカイリムにおいて、最も厳しい監獄だと思われ、生きてるだけでも”ありがたい”と思える場所でしょう。
生きられるかどうかは保証できませんがw
良民を騙す政治家には、これくらいの罰を与えてもいいのかもしれませんw

◎ファルクリースとナディア
ファルクリースでの過去の出来事を元に、停戦協定での出来事も加えてあるので、デンジェールはナディアに恩義があります。
さらに、ナディア達はバイルガルチ鉱山の強力なオーク達を一掃しているので、彼女の影響は周囲の山賊達にまで及んでいます。
なので言ってしまえば、ナディアは首長のデンジェールよりも支持力が強く、ファルクリースはナディアに逆らえません。

◎帝国とソリチュード
ソリチュードはスカイリムの首都です。
第三紀のセプティム朝においては、セプティム家の直系の者がこの街の首長をやっていました。

例として、ペラギウス・セプティムやポテマなど・・・
なのでソリチュードという街自体は、帝国と深い縁を持っています。

◎オブリビオンSS
今回はtwitterにて色々とお世話になっている『naritete』さんから、SS撮影のご協力をしていただきました^^
【メイルーンズ・デイゴン】
【クヴァッチの英雄】
【マーティン・セプティム】
のSSを使わせていただいております^^
オブリビオンは過去作なのに、スカイリムに負けず劣らずの綺麗なSSを頂けて大変感謝です^^
nariteteさん、撮影にご協力いただき誠にありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いしま~す^^ノ




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