お待たせ致しました。
『SOS第十三話EP3』ようやく公開いたします(´▽`*)

今回のお話しは、リーチの覇権をめぐる戦いがメインとなっています。

嘗てマルカルスにて、フォースウォーンの王を名乗ったマダナック。
彼は帝国軍の隙をついて、マルカルス奪還に動きだし、大群を以てこれを包囲した。
首長イグマンドは、マルカルス軍総出でこれを迎え撃つ。
そしてリッケを大将とした1000の帝国軍も、救援の為にマルカルスに迫っていた。
しかしその裏では、更なる陰謀が暗躍していた。
果たしてマルカルスの運命やいかに!?

今回は、バニラのマルカルスらしく、いやそれ以上に”かな~~~り”陰謀じみています。
その陰謀も然ることながら、様々な面で考えさせられる点が多く、相当頭を使い込んだせいで、独自設定の色がかなり濃いと思われます。
とはいえ端々に、バニラの要素も入れているつもりであります。
もしかすると、ちょっと難しいかな?なんて思うのですが、自分なりには面白くできていると思うので、喜んでいただけたら万々歳なのですが・・・(;´Д`)

また今回もいつも通り長いです!前回よりも長いです!?スイマセン!
前回のEP2をBlogにアップする際、3時間も掛かってしまいました。
どうやらBlog自体も限界だったようなので、止む終えずEP3を前編・後編に分ける事にしました。

いつも通りお時間のある時にでも、一時の興奮を味わって頂けたらと思います^^b
ごゆるりとお楽しみくださいませm(_ _)m

マルカルス、トレジャーハウスの一室にて・・・

1
ソーンヴァ―
『お前・・・本気でそんな事を考えているのか・・・?』
2
ソーナー
『この街は一枚岩じゃない。
その元凶となっているのはイグマンドだ。
あんな矛盾した男を、帝国が首長に据え置かなければ、こんなにも複雑な街にはなっていなかったハズなんだよ』
3
ソーンヴァ―
『俺が心配しているのはそんな事じゃない!フォースウォーンの事だ!』

ソーナー
『フォースウォ―ンは兄さんの範疇じゃないだろうw』

ソーンヴァー
『どういう意味だ!?』

ソーナー
『日がな一日、イグマンドの足の裏を見ているだけじゃ、何も変わらないって事だよ』

ソーンヴァ―
『なんだとぉ!!』
4
ソーナー
『兄さん、俺たちは私設兵団を抱えている。そしてこの街の半分以上は俺たちの物だ。
この街のルールも俺たちだ。そして帝国軍とも繋がりを持っている』

ソーンヴァ―
『俺たちはノルドだ!!タロスを廃絶しようとする帝国を支援するなんて、もっての他だ!!』
5
ソーナー
『頼むから、もっと利口になってくれよ』

ソーンヴァ―
『お前!実の兄に言う事かそれが!?』
6
ソーナー
『これは兄弟の問題じゃない!
一族の存亡に関わる問題だ!!
今の世の中を生き残るには、帝国だろうとサルモールだろうと、手を組むのが利口な選択だ!
タロスに拝んでるだけじゃ、飯は食っていけねーんだよ!!』
7
ソーンヴァーは弟の怒声にたじろいでしまった。
彼の言う事は、正論だったからだ。
8
ソーナー
『俺は兄さんを廃絶しようなんて考えていない。
この世で唯一の家族だからな。
イグマンドを引きずり下ろした際には、兄さんにこの街の首長をやってもらおうと考えている。
そうすれば、シルバー・ブラッド家は安泰でいられるからだ』
9
ソーンヴァー
『俺は帝国の飼い犬にはならんぞ!』
10
ソーナーはため息をついた。

ソーナー
『イグマンドではなく、シルバー・ブラッド家があの椅子に座っていたのなら、それも通っただろうさ。
だが今は違うんだよ!ウルフリックを支持しても、俺たちには何にも得がないんだ!』
11
ソーンヴァー
『名誉がある!』

ソーナー
『その名誉には、何の価値もないだろっ!!』
12
ソーンヴァー
『忘れたのか!
マルカルスをフォースウォーンの手から解放してくれたのは!帝国でもない!サルモールでもない!ウルフリック・ストームクロークなんだぞ!』

ソーナー
『そのウルフリックが欲しがっているのは兄さんじゃない!
”俺たちの銀”だ!』
13
ソーンヴァ―は驚きを隠せなかった。
それは弟の自分を見る目が、血を分けた兄弟とは思えない程乾ききっていた事と、そして今後の自分の選択肢が、限られてしまった事を強く悟ったからである。
13-1
ソーナー
『なぁ兄さん、シルバー・ブラッド家はこの街で最も力の有る一族だ。
なのに、”王”を名乗れないなんて、おかしいと思うだろ?』

ソーンヴァー
『俺は・・・傀儡(かいらい)にはならん!!』

彼は弟に背を向け、部屋を出ていこうとした。
14
ソーナー
『ウルフリックの所に行っても、何も変わらないぞ!』

その言葉にソーンヴァーは、一瞬歩みを止めた。
15
ソーナー
『もう少しでマルカルスは、フォースウォーンに包囲されるだろう。
その時までに、身の振り方を考えておくんだな』

ソーンヴァーは何も言わず、そのまま部屋から出て行った。






16
一間置いてソーナーの後ろから一人の男が姿を現す。

レブルス
『ご家族には随分とお優しいのですね・・・』

ソーナー
『世間体ってやつだ。俺にとっては血を分けた兄だからな』

レブルス
『では、随分と寂しい話になりますな』
17
ソーナー
『俺はただ、手近な物で”王”を作ってみようと思っただけだ』

レブルス
『なかなか面白い余興かと』
18
ソーナー
『どのみち失う物はこれで無くなった。
兄が”王”を拒否するのなら、俺がやればいいだけの話だ』






19
リッケは、テュリウスの命令通りすぐさま行動に移した。
まずロリクステッドに向かい、ハドバルと打ち合わせをした。
この時、コルスケッガ―で落石があった事を知った。
なので用心の為、火急を知らせてきたマルカルス兵達に道案内をさせる事にしたのである。

ところが・・・
20
シピウス
『いないだと!?』

ハドバル
『申し訳ありません><;』
21
シピウス
『どういうことだ!?』

ハドバル
『それが・・・待機させていたはずのテントがもぬけの殻で・・・今、周辺を当たらせてはいるのですが・・・』

彼らはいつの間にか姿を暗ませていた。
22
シピウス
『馬鹿野郎!!急いで見つけてこいっ!!』

シピウスは、ハドバルの失態に怒りを顕にしてガナりつけた。
23
リッケ
『もういいわ!』

だがリッケがそれを止める。
二人とも声を詰まらせ、彼女に目線が行った。

リッケ
『偵察隊を先行させつつ、進軍することにする。
ハドバル、あなたはこの事を将軍に知らせなさい』

ハドバル
『了解しました!』

ハドバルは急いでその場を後にした。
24
シピウス
『リッケ、こんなのどう考えたっておかしいぞ・・・』

リッケ
『分かっているわ。
でも今問題なのは、私たちが足踏みしている間にも、フォースウォーンに時間を与えてしまう事よ』

シピウス
『しかし、状況がわからないまま進軍させるのはもっと危険だ』
25
リッケ
『だから偵察隊を先行させるのよ』

それでもシピウスは不満そうな表情を浮かべていた。

リッケ
『出来る事をやるしかないわ』
26
リーチ地方は、ハイロックを跨いで東西に分かれており、特に東側は高い山が乱立する独特の地形を擁していた。
川を挟んで切り立った岩肌の下や、断崖絶壁の上を進んで行くという道が多く、それらの高低差もまた、息を飲むほどの物が多数を占める。
現地人であるフォースウォーンには、地の利があるため、あちこちに伏兵の可能性がどうしても否めないのだ。
シピウスの不安は当然と言えた。
27
だがリッケは、テュリウスの焦り様から、 ”こういう事態に陥る事を遠からず予測していた”のだろうと判断していた。
彼が1000の兵を与えたのは、そういう意味もあったのかもしれない。
なので”マルカルスで何かが起きている”という事態は確かだと言えた。
28
またマルカルスは、スカイリム西方にあるリーチの首都である。
切り立った高い岩山に囲まれており、その岩肌を削って作り上げた石の街、またはかつてのドゥーマー(ドワーフ)達の要塞である。
中央に流れる川はカース川といい、街中を勢いよく流れる水が外にまで流れ出し、延々と続く川を形成している。
マルカルスは天然の岩山を利用した街であり、このカース川の源流に位置するよう鎮座している。
29
街を出ると二本の道があり、片方はカースワスティン、ソリチュード方面(北)へ、もう片方はホワイトラン、ファルクリース(東)へと続く。
北への道は、馬車の交差がやっとできる程度の街道ではあるが、一歩間違えればカース川へ転落しかねない断崖に作られた桟道である。
東への道はやや安全ではあるが、両方を切り立った岩肌が挟む形となり、奥に行くほど徐々に道は開けて行く。
兎にも角にも、マルカルスを行き来するには、この二つの道を使うしか方法はない。
30
リッケ率いる帝国軍は、夜陰に乗じてロリクステッドを出発した。
フォースウォーンを警戒しつつの、非常に難儀な進軍ではあったが、陽が昇り始める少し前には、コスルケッガ―鉱山前に辿り着く事ができた。
そして山小屋の前で、マルカルス兵達の無残な遺体と遭遇したのだ。
31
シピウス
『クッソー、やりがやったなフォースウォーンめ・・・』

シピウスは、馬上にて歯を食いしばった。
32
リッケは馬から降りると、今来た橋の向こう側と、落石によって道を塞いでしまった方向に目を向けた。
川沿いの傾斜は何とか通れる道のようだが、一歩間違えれば川底に転落と言った所だ。

シピウス
『なぁリッケ・・・俺たち誘い込まれてるんじゃないか?』

シピウスのその言葉に、不思議と彼女は感心した。
33

前述にも記載したが、マルカルスを行き来するには二つの道しか存在していない。
その一方のホワイトランへの行き来をする道は、コルスケッガ―鉱山の手前にある脇道に繋がっている。
その道をマルカルス方面に向かうと、カース川を渡るためにここだけ橋が掛けられていた。
33-1
ところが先行させた偵察隊により、この橋が既に破壊されてしまっている事を知った。
つまりは、自分たちがマルカルスへ向かうには、落石のあったこのコルスケッガ―沿いの道しか残されていないと言う事である。
それはシピウスの言う通りで、明らかに危険であり、想像以上の慎重さを求められるのだ。
34
だがリッケには、どうしても腑に落ちない点があった。
35
フォースウォーンの蛮行はあまりにも知れ渡っている。
戦術や兵器を用いるよりも、力を使い無理やりにでも押し通すといった強引かつ野蛮な行為。(第十二話EP3)
36
そして相手を精神的に追い詰め、恐怖に陥れるための過剰殺人。
文明からかけ離れた暴力こそが、彼らの力の象徴であり、そして彼らが彼ららしくあるためのアイデンティティ。(第十二話EP3)
37
橋を落としたり、落石で道路封鎖をするような単純なやり口は理解できる。
だから、シピウスの言う”誘い込み”は間違いないだろう。
気になるのは、姿を暗ましたマルカルス兵達だ。
どうしてもこの事だけが、繋がりを感じ取れなかった。
38
リッケ
『マルカルスがたった一日で落ちたと・・・?』

テュリウス
『あの街は一枚岩じゃないからな』(第十三話EP1)

テュリウスの言葉が頭を掠める。
40
マルカルスはもう目前だった。
しかし、不思議と殺伐とした気配すら感じ取れない。
先行させた偵察隊の話によると、マルカルスの前には篝火一つ灯っておらず、不気味なほど静まり返りっていたとの事だった。
シピウスの呟きには感心はしたが、代わりに妙な不安が脳裏を過った。






41
フォースウォーンはカースワスティンを襲撃した時、市警の一人をワザと生かし、マルカルスへ使者として送りつけた。(第十二話EP3)
イグマンドは激怒し、すぐさまファリーンを使いカースワスティンに派兵した。
その為フォースウォーンが、この街を狙って来ることは明白だった。
42
マルカルスの城壁は高く、そして石で出来ているため、一見すると非常に攻め難く見える。
目の前の広場には、高い塔の見張り台が二つあり、市警隊は常にこの塔に登り、一日中見張りに立っているため、遠くの異変にも気づきやすい。
そしてマルカルスの城壁も厚く、左右両方に壁内通路が設置されているため、ここからも常に見張りが立ち、さらに城門前にも二人の見張りが立っていた。

これだけの威風と警備を誇ってはいるのだが、この街には大きな弱点が二つもあった。
それは、街に出入りするには、正面の門からの一ヵ所しかない事と。
そして城壁の凹凸が多過ぎる事である。
43
フォースウォーンは、驚異的な身体能力を持ち合わせている。
近代的な兵器を用いるよりも、力を誇示するような破壊力もさることながら、寧ろ狡賢い(ずるがしこ)ゲリラ戦に富んでいた。
その証拠に壁をよじ登るにも、梯子やロープなどの道具を要せず、手足だけを使い、いとも簡単に登ってしまうのである。
今までもマルカルスでは、同じような小競り合いを何度も経験していた。
なので敵が、どんな戦い方をして来るのかはわかり切っていたのだが、イグマンドにはこれを完全に防ぐ手立てが見つけられないでいた。
44
イグマンド
『今までのような小競り合いと言う訳にはいかないぞ・・・』

ラエレク
『うむぅ~』

叔父のラエレクもさすがに頭を悩ます。
45
そんな時、珍しい男がヒョッコリと顔を出した。
カルセルモである。

カルセルモ
『首長・・・聞き難いことなのだがぁ・・・ふぁ、ファリーンを先発隊に遣わしたというのは、本当か?』
46
【カルセルモ】は、ドゥーマー研究者であり、タムリエルでも屈指の一人である。
研究の成果を著した本を出版し、ここマルカルスにおいては研究場も然(さ)る事ながら、遺跡の調査、発掘を一手に担っている人物でもある。
実は彼は、年甲斐もなくファリーンに恋文を送り、見事成功を修めた老ハイエルフだったw
その仲介を手伝ったのが、何を隠そう”ナディア”である。
彼の頭は、ドゥーマーの事で一杯である事は有名なのだが、ファリーンにはどこか骨抜きなところがあり、彼らしく心配をしていた。
47
ラエレク
『カルセルモか・・・気持ちはわからんでもないが、今はマルカルスの一大事なのだ』

一兵卒程度の相手なら、無礼だと怒鳴りつけるところだが、カルセルモほどの著名な人物になるとそうもいかない・・・
ラエレクはため息交じりに口にした。
48
カルセルモ
『ああ、すまない・・・そうだったな・・・』

カルセルモは一瞬ファリーンが頭に浮かんだ。
もう少し若ければ、もう少し力があれば・・・
非力な自分を嘆き、残念そうに振り返ると、トボトボと自分の研究場へ帰ろうとした。
49
イグマンド
『待て!カルセルモ!』

イグマンドの咄嗟の呼び声に彼は振り向く。
50
イグマンド
『お前はドゥーマー研究者だろ。
マルカルスは元々ドゥーマーが作った城だ。
フォースウォーンの攻撃を防ぐ、何かいい方法はないか?』

ラエレクは彼の最もな質問に感心した。

カルセルモ
『・・・』
51
イグマンド
『間もなくフォースウォーンは、城外に姿を現すだろう。
だがこれを排除する事ができなければ、我々は一歩も外に出られん!!』

ラエレク
『そうだカルセルモ!
フォースウォーンを排除する事ができれば、ファリーンの捜索隊も出せるのだ!』
52
カルセルモ
『そうか、やはり・・・』

彼はファリーンの様子が、彼らにも解らない事を悟り一瞬躊躇ったのだが、すぐに考えを切り替えた。
自分にやれる事をやるしかない!
53
カルセルモ
『・・・ある事はあるっ!!』

三人集まれば文殊の知恵とも言うが、彼は実にユニークな作戦をイグマンドに提案した。
54
まずは城外にいる者を中に呼び、正門を固く閉じた。
非戦闘員を避難所に案内する。
城壁より高い位置に自宅がある者は、そこで待機。
その他の者は、各施設の建物に避難する事になった。
当然ながら市民の外出禁止令が出る。
この時、軍関係の建物は除外された。
54-1
そして兵士や市警隊を使い、多量の土嚢と弓矢を掻き集めるよう指示を出したのである。
55
マルカルスと言う街は、ドゥーマーが突如姿を消してから、他種族によって支配されてきた。
だが誰一人として、この街の有効的な使い方に目を向けた者はいなかった。
しかしカルセルモは知っていた。
この街が堅牢と呼ばれる所以(ゆえん)を。
56
マルカルスは山の斜面を削って作られている。
その為、奥に行くほど急斜面になっており、それはちょうどアルファベットの【J】という形になる。
そしてこの街のもう一つの特徴は、山頂からゴンゴンと湧き出る、とんでもない量の流水である。
その水は、下に位置する城壁の一か所から出ていくよう設計されている。
これを内側から多量の土嚢で防いでしまう。
毎分数トンにも及ぶとてつもない流水量は、一日と掛からないうちに街の半分を水底に沈めてしまうのだ。  
当然リスクもそれなりにはあるが、外からの侵入を防ぐには、最も効果的な方法でもある。
それはこの水が、石よりも遥かに固く分厚い壁になり、そしてとんでもない武器にもなるからだ。
57
ラエレク
『だがそれではダメだ!
水が溜まるまでに時間がかってしまう!』

イグマンド
『アイツらは壁を手足でよじ登って来る。
水が溜まる前に、城壁を超えられてしまい、門を開けられたら一巻の終わりだ!』
59
するとカルセルモは、懐から濁った金色の小さな壺を取り出し、イグマンドに見せた。

カルセルモ
『それなら・・・これを使うと良い』
60
住民達を避難所に逃がしつつも、兵士達はテキパキと作業を重ねていった。
排水溝を防ぐ作業も順調に進み、徐々にではあるが水位が上がって来た。
61
次に兵士達が指示されたのは、各高所に陣取るという命令である。
だがこれは、足場が城壁よりも上でなければいけない。
複数の兵を集められる場所は、距離や視野などの関係上から、かなり際どい位置が多数を占めるのだが、足場の悪い位置にも単体で配置する事でカバーする事にした。
つまりは、この高所からの弓矢による攻撃のみで、壁をよじ登ってくるであろうフォースウォーン達を撃退するのである。

そしてその時はきた・・・






62
マルカルスでは、重い空気を孕んだ緊張感が走っていた。
壁の向こう側から、フォースウォーン達の地響きにも似た雄叫びが聞こえてくる。

フォースウォーン
『リーチを我らの手に!!リーチを我らの手に!!』

まるで巨人が足踏みするかのように、街全体を揺らした。
63
否応なしの緊張感が走る。
兵士達は誰一人口を開こうとしなかったが、それでも心の声は共有していた。

”額に新しいケツの穴作ってやる!”

”絶対に通さんぞっ!”

”風穴開けてやる!”

”ハチの巣にしてやる!”
64
イグマンド
『いいかっ!一人もあの壁を越えさせてはならん!昇ってくる奴がいたら、一人残らず撃ち落とせっ!!』

マルカルス兵士
『おおおおおうっ!!』

65
マダナックが腹の底から号令を掛ける。

マダナック
『壁をよじ登れええぇーー!!』

フォースウォーン
『うおおおおおお!!』
66
野生の大群が、掛け声とともに一斉に動き出す。
壁を押し倒さん勢いの大人数が、城壁の下に集まるり、手を掛けては次々と登っていく。
それはまるで蟻の大群が、壁に張り付いているかの様でもあった。
67
だが、壁の上まであともう少しと言うところで、一人が下に落ち、また一人と次々と下へ落ちて行ってしまう。
68
落下した者は固い石畳に打ち付けられ、衝撃で骨折し動けなくなる者もいたが、落ち方が悪かったせいで、変な形となって命を落とす者もいた。

フォースウォーン(男)
『クッセー!!なんだこの臭い!?』

すると一人の女が、遺体の手に付着した黒光りするモノに気づく。

フォースウォーン(女)
『この黒いは何?』
69
カルセルモがイグマンドに差し出した壺とは、ドワーフのオイルである。
高度な文明を要していたドゥーマー達は、今では失われてしまった機械の技術を持っていた。
このオイルは、金属同士の摩耗を減らすための潤滑油だった。

実は彼は、このオイルを再現するために、随分と実験を繰り返していたらしく、その副産物として度々黒い液体が精製される事がわかった。
乾溜液、いわゆるタールである。
タールは重ね塗りをすると乾きにくく、粘性が高い、そして液体のままなので滑りやすい、更に石油や石炭を原料としたタールは、強烈な刺激臭を有する。

マルカルス兵達は、このタールを壁の上に出来る限り塗りたくった。
一旦手に着いたタールは、壁を掴もうとする手をいとも簡単に滑らせたのである。
70
それでもフォースウォーンたちは諦めなかった。
壁に手が掛けられないとわかると、今度は下にいる者を踏み台にして昇っていく。
71
ようやく壁の上に着いた一人は、体中タールだらけで真っ黒だった。
彼はしてやったりとばかりに雄たけびを上げる。

フォースウォーン
『うぉおおおおお!!!』
72-1
だがその喜びも束の間。
今度は各所に配置したマルカルス兵達が、待ってましたとばかりに狙いを定める。
72-2
引き絞った弦を一気に放すと、尾を引きながら一直線に鋼鉄の矢が飛んでいった。
72-3
魔法で反撃しようと狙いを定めていたフォースウォーン。
無音で近づいて来た一本の矢が、彼の額を貫いた。
72-4
成す術も無いまま後ろに倒れると、体ごと仰け反らせて下へ落ちていった。
73
もしも、壁にタールを塗っていなかったら、今より3倍、いやその倍以上の人数が登り切り、今頃城門が開けられていたに違いない。
イグマンドには、妙な期待感が沸いていた。

イグマンド
『いいぞ!よく狙って撃て!』

その間も城内の水嵩(みずかさ)はどんどんと増していった。
74
マダナックも諦めていない。
壁が駄目ならと、今度は正門を破壊する方法を取った。

マルカルスの正門は、ドゥーマーが独自に作り上げた金属で出来ている。
鋼鉄よりも固く、鉄よりも柔軟性があり、強く叩くだけでは、そうそう簡単に破壊することは難しい。
そこでマダナックは、炎系の魔法を得意とするハグレイブンを集め、火力を扉に集中し、これを融解してしまおうと考えた。
75
悲願達成を目前に、フォースウォーン達は必死にあがく。
全身タールまみれになりながらも、登り切ったところで、足を滑らせそのまま落下する者。
例え落ちても、登り途中の仲間の頭や肩を鷲掴みし、彼らを踏み台にして上がっていこようとする者
もはや意地を通り越し、執念だけが、彼らのモチベーションを保っていた。
76
フォースウォーンには、命を惜しまず戦うという厳しい教えがある。
一族の為、勇敢に戦って死ぬ事こそが、彼らにとって最も名誉とされていた。
77
この考え方は、正規の軍隊においても、そういう風習のようなモノが確かにあった。
だがそれは、隣に立つ者は仲間であり、仲間を守る事が国を守る事、そして家族を守る事に繋がるからこその、 ”最後の選択”として存在している。
だからこその勇者であり、英雄と呼ばれるのある。
78
しかしフォーウォーンはそうではない。
上の者を守るために、下の者が犠牲になるのは当たり前であり、そして力の有る者こそが”勇者”と称えられる為、それに叶わない者は、彼らを守るために命を犠牲にするのである。
云わば捨て駒のような勇者である。
79
暫くすると腹心のボルクルがマダナックに諫言した。

ボルクル
『マダナック!川の水位が減ってるぞ!』

マダナック
『それがどうしたっ!?』

ボルクル
『内側から堰き止めてるんだ!!』

マダナック
『ああ!?』
80
ボルクル
『あの門を開けたら!鉄砲水が飛んでくるぞ!!』

マダナック
『なにっ!?』

マダナックは”しまった”とばかりに驚き、声を詰まらせた。

しかし、気付くのが遅すぎた・・・






82
ドカーーーーン!!!!

次の瞬間、溶けた門を吹飛ばし、その後ろから巨大で強烈な鉄砲水が、破裂したかのように飛び出して来た。
鉄砲水は外に陣取っていたフォースウォーン達を、遥か彼方まで吹飛ばしたのである。
あっという間に広場全体を、荒波を抱えた大海原にしてしまった。
仲間たちが次々と飲み込まれていく。
悲鳴やうめき声さえも、その轟音にかき消され、成す術も無いまま押し流されていった。
83
その光景を高見台から目の当たりにしたマダナックとボルクルは、大口を開けて唖然とする。
嘗て経験した事のない。
また、見た事もない、あまりにも信じ難い光景に、言葉を失った。
84
壁をよじ登っていたフォースウォーン達も、思わず動きが止まる。
正門から噴き出す、大砲の様な鉄砲水に唖然とした。
84-1
地面の水位が急激に上がっていき、壁にしがみついていた者達が次々と流されていく。
85
今まで踏み台にされていた者が、その勢いに流されまいと、上にいた者の頭や足を掴む。
その重みに耐えられなくなった者は、手が壁から離れ、一蓮托生と皆流されて行ってしまった。
86
何とか登り切って偶々(たまたま)難を逃れた者もいたが、マルカルス兵達の良い的になるだけで、ハチの巣になるか、壁の向こうに落とされていった。
87
この瞬間、イグマンドは勝利を確信した。
カルセルモの突飛な作戦が、見事に功を奏し、なんとか獣の猛攻を押し返す事ができたのである。
88
北側の街中は、水の引きが早かった。
89
逆にフォースウォーンは、水が引くまで一歩も動けず、もう一度陣形を立て直さなければならない。
90
その隙を見てマルカルス兵達は、正面の門を塞ぐために、次々と土嚢を積み重ねていった。
91
この頃になると、いつの間にか陽は西に傾き始めていた。
そしてここで、一旦休戦となったのである。
だがどちらが優勢なのかは、一目瞭然だった。
92
街の南側は地面が低い為に、排水溝を開けない限り水が溜まったままになってしまうのだが・・・
元々高所の多いマルカルスは、再び水が溜まったとしても、城壁以上に水位が上がる事はない。
故に乾いた場所はいくらでもある
93
だが下で陣取るフォースウォーンは、常に城壁から溢れてくる水のせいで、地べたがビショビショの為に座る事すらできない。
座る事ができないのだから、寝る事もできない。
火を起こそうにも、濡れたままでは焚火もできない。
革製の鎧は、多量の水を含み重みが増す。
加えてスカイリムは、寒冷地帯である。
幾ら雪が少ないマルカルス周辺でも、山々に囲まれたこの地は、冷気が下に溜まりやすい。
日差しが隠れた夜になると、凍てつくような寒さがその身を切る。
たかだかそよ風が吹くだけで、ドンドン体温を奪い、それは容赦なく体力をも削っていった。
94
それでもマダナックは、退却しようなどどは微塵も考えなかった。
長年に渡り恨み辛みを重ね、ようやく回ってきた”天が与えしこの機会”を、どうしても捨てる気にはなれなかったのだ。
彼は仲間を纏めると、囲いのあるサルヴィウス農園にて陣を敷き、ここで一夜を過ごす事にした。
95
辺りが暗闇に包まれた朝方の深夜、リッケの寄越した偵察兵がカース川の対岸に姿を現した。
破壊された橋、その向こうからは多量の水が流れ、通常の流路があちこちと方向を変え散流していた。
彼はこの時の光景を、コスルケッガーに到着する前のリッケ達に伝えたのである。



後編に続く・・・




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