80
帝国資本である東帝都貿易会社は、ウィンドヘルムにも拠点を置いていた事がある。
その頃の責任者は、アデライサ・ベンディッチというインペリアルで、壮年で経験豊富とされ、東帝都社所属の女性将校だった。
しかし、この地での業務は、初っ端から困難な事ばかりが続いていたのである。81
スカイリムの北東には、モロウィンドウからの避難者の為に、ダンマー(ダークエルフ)達に譲渡された”ソルスセイム島”がある。
82
この島の一部では”黒檀”が採掘できたおかげで、東帝都社との交易もあり、これが島に潤いを齎(もたら)していた事があった。
そして、ソリチュードとの交易の橋渡し役として設置されたのが、ウィンドヘルムの支店である。
83
だが手を伸ばした途端に、ソルスセイムでは鉱物が採れなくなり、当時の東帝都社の社長であるヴィットリアが打ち切りを要請。
いきなり頓挫してしまうという結果に。
アデライサは、皇族であるヴィットリアの命令に逆らえず、金策に右往左往する羽目になる。
84
しかし問題は、ここに会社を設置した時から始まっていた。
元々ウィンドヘルムには、シャッターシールド社という貿易会社が存在している。
これを経営しているのが、トールビョルン・シャッターシールドという恰幅の良い老ノルドである。
彼はウィンドヘルムでは有力者の一人であり、スカイリムでは裕福な人物の一人とされている。
85
しかし彼は、差別的な考え方の持ち主でもあった。
”ノルド以外は下賤の者”と考える、ノルド至上主義者の一人でもある。
その為、故郷を追いやられたアルゴ二アンを低賃金で働かせ、経営はダンマーに任せきっりで、自身は自宅でのんびりし、暇さえあれば市場を練り歩く事が日課になっていた。
86
当然ながら東帝都社が、この土地に居を構える事を快く思っていなかった彼は、ライバル会社が設置される前から、追い出しの為の策を練っていたのである。

87
スカイリムとソルスセイムとの間には、ジャフェット・フォリーという小さな島があり、ここは”ブラッド・ホーカー”と呼ばれる海賊達の拠点となっていた。
彼らの主な収入源は、輸送船の襲撃である。
シャッターシールド社も、彼らの被害に何度も頭を悩ませた事があった。
88
ブラッド・ホーカーの頭である”ハルディン”という男は、別名”魔闘士”と呼ばれ、剣術も然ることながら魔法にも長けている人物だった。
オマケに狡賢い性格のレッドガードであり、護衛の為に雇った流れの傭兵程度では、金をドブに捨てるようなもので、悉く全てを奪っていく頭痛の種であった。
89
トールビョルンは、ここで愚策を取る事になる。
ハルディンに毎月の上納金を納める代わりに、商船を襲わせないよう約束させたのである。
この時、彼はアデライサの話も持ちかけていた。
つまりは、東帝都社を餌にハルディンの目を自分達から逸らしたのである。
90
おかげで東帝都社の倉庫はいつも空っぽ、クモの巣が張っているだけになってしまった。
そして更に問題は重なる。
91
ドラゴンボーンと呼ばれていたナディアが、”世界を喰らう者アルドゥイン”を倒した事により、ソリチュードのテュリウス率いる帝国軍が動き出したのである。
92
彼らは反乱鎮圧のため、ドーンスターからウィンターホールドを伺い、そしてウィンドヘルムへと軍を進めた。(第十話EP2)
一時はガルマルやウルフリックの策のおかげで、帝国危うしとまで思われた。
93
この時、城内で勝利を確信したノルド達が、酒を飲みドンちゃん騒ぎを起こしたのである。
94
テュリウスはこの時を逃さなかった。
すぐさま夜陰に乗じて兵を動かし、あっという間にウィンドヘルムを包囲してしまったのである。

しかし、ここから流石のテュリウスも手をこまねいた。
ウィンドヘルムの城門は高く、そして固い石造りであり、そこに到達するまでには長い橋を渡らなければいけない。
無理に力押しを繰り返せば、遠征軍であるこっちの被害を大きくする事は、火を見て明らかだった。
95
そこで彼は、城の内部から責める策に切り替えた。
元々ウィンドヘルムでは、ダンマーやアルゴ二アンは酷い差別対象とされていた。
テュリウスは彼らに呼びかけ、内側から門を開けさせようと画策したのである。
96
しかしこれが、現地の様々な企業に大きな打撃を与える結果となってしまった。
ウルフリックは内通者を特定するよりも、その元凶となる者を全員逮捕監禁する事で、テュリウスの策を未然に防いだのである。
その殆どがダンマーとアルゴ二アンであり、彼らは差別対象であったにも関わらず、重要な労働者でもあったのだ。
97
おかげで東帝都社は、撤退を余儀なくされてしまい、アデライサはソリチュードに転属される事に。
今現在、彼女はソリチュードの東帝都社の倉庫管理を任されていた。
98
スカイリムに来てからというもの、赴任当初から辛酸を舐める結果になってしまったのだが、実際彼女の身の回りでは不幸な事が相次いでいたのも事実である。
ソリチュードに転属が決まって、まだ日も浅いというのに、今度は重役であるヴィットリア・ヴィキが暗殺される羽目に。
この訃報には、さすがの彼女もショックを受けざる得なかった。
99
迷信や言い伝えが、当たり前の様に謳われる時代である。
いくらスカイリムでは、先進的だとされているソリチュードと言えど、アデライサが”不幸を招く女”と噂される様になるのに三日とかからなかった。
100
だが彼女も帝国将校の端くれである。
そんな流言に気落ちするよりも、なんとかしてこの汚名を晴らしたい気持ちで一杯だった。
なのでこれから来るシロディールからの輸送船を護衛し、無事にソリチュード港に入港させなくてはいけない。
そしてその物資を、ホワイトランで戦っているテュリウス率いる帝国軍に、無事届けるのである。






101
スカイリムの北海ゴーストシーは、その名の如く【亡霊の海】と呼ばれている。
極寒の海には氷山があちこちに散々しており、温度差や風、水の流れによってピキピキと奇妙な音がしばしば響いてくる。
ある者はこの音が、怪物が獲物を探して叫んでいるのだとか、子供を失った母親の幽霊が泣きながら彷徨っているだとか、沈没したはずの幽霊船が漂っている音だとか・・・
様々な憶測や言い伝えが重なったおかげで、好んで近づこうとする者は少なかった。
それだけに、社会からのはみ出し者達の格好の隠れ蓑になり易い。
特に海賊たちにとっては、寒さを除けば、この上なく快適な住まいとなりうる。
102
当初、海賊と言っても、大小様々と存在していた。
だが内戦に突入してからというモノ、突如互いに潰し合いを起こし、殲滅・壊滅を繰り返したのである。
生き残った者達は、より強い団体に吸収され、再び別の団体に戦いを挑むなどをし、奇妙な共食いを繰り返した。
103
というのも、テュリウスはこの地に足を踏み入れた際、周囲のならず者達の一掃作戦を立てた事があった。
104
正規の軍隊の強さには目を見張るものがあり、小さな集団など、彼らの敵ではなく、瞬く間に蹴散らされたのである。
他人の土地に土足で踏み入る際、現地の人間の信頼を得るためには、彼らが最も困っている問題事を解決に導いたほうが、心を勝ち得やすいという経験からである。
105
だが、海賊となると海戦という形になる。
内陸に位置するシロディールは、陸戦には特化していても、足場の悪い海の上では分が悪い。
106
そこでテュリウスは、現在の海賊の大まかな勢力図を作り、中規模な団体をいくつか定め、彼らに特別な待遇を約束させたのである。
107
”外商”とは、売り場を通さず直接客に販売する事を指す。
そしてそれをソリチュードにて認めるという事であった。
今までアウトローとして名を通してきた者が、社会的な制約の元、正規の商人として受け入れられるという訳だ。
108
だが傍から見れば、この程度の餌では”特別な待遇”としては物足りないのでは?と考えられる。
なので、側近のリッケなどはテュリウスに疑問符を投げた。
109
リッケ
『海賊を生業としている連中は、無法行為を好んでいる者達ですよ?
そんな連中に免責特権を与えるから、真面目に働けなど・・・とても食いついて来るとは思えませんが?』

テュリウス
『食いつくさ。
社会の構図とは、上流層に行くほど、または下級層になるほど上下関係は激しくなるものだ。
上流層は作法の一種と言うだろうが、下は至極単純、力のある者が優位に立つ。
まして無法者の集まりとなれば、法など適用されん。
自然と下の者に不満が集まってくるものだ』
110
リッケ
『頭を潰して自分達が成り上がるチャンスを与える・・・内部分裂を狙う訳ですか?』

テュリウス
『それも一つだ』
111
リッケ
『確かに彼らは、力や恐怖心を利用し支配している場合が多いようですが、海賊となると、金や信用で繋がっている連中もいるかと思われます。
行き場を失った貿易船などが、生き残るために海賊に身を費やしたなど、よく耳にします』

テュリウス
『その為に中規模団体にターゲットを絞るんだ』
112
この時のリッケには、テュリウスが何を考えているのかよく理解できなかった。
113
しかし、首長であるエリシフには許しがたいモノがあった。
”外商”を許すという事は、スカイリムの首都であるソリチュードで、ならず者が大手を振って商売をする事となんら変わらない、それはつまり犯罪の温床になり兼ねない。
しかも、税関を通さないというのは、街中であり得ないモノまで流れる事を意味するのである。
114
海賊の殆どは略奪によって得た戦利品が主である。
となると、首都で盗品が横行する結果になってしまう。
ただでさえ格差の激しいスカイリムである、一部の者が大量の買い占めなどを行えば、平等な富の分配という構図が崩れかねない。
しかもその盗品が、ソリチュードから外へ流れるような事態になれば、宮廷の権威さえ失墜しかねない。
公平であるとする事が、座右の銘のエリシフにとって、我慢のできる話ではなかった。
115
だがテュリウスは違った、巨大な都市部を出身とする彼にとって、この程度の流通の変化は問題にもならないという点と、
寧ろスカイリムは、もっと流通を頻繁にさせる必要性があると考えていた。
117
嘗て彼は、流通の中心地であるホワイトランを訪れた際、”こじんまりしている”と評価した事があった。(第十三話EP1)
各地の首長達が暇を持て余すようでは、スカイリムはやがて他国の侵入を容易に受け入れてしまう可能性がある。
寧ろ酒など飲んでいる暇など無いくらい働いてもらわないと、ウルフリックの単調な罠さえ気づかないくらいに緩んでしまう危険性もあった。
118
そして、今現在においても格差が広がっているのは、ソリチュードという都市が、皇族との密接の繋がりがあり、公にはできな事が多いのも原因として考えられた。
もし、富の分配こそが公平であると言うならば、平民達に多くの仕事を与えられるようでなければ、それは意味を成さないと説いたのである。
119
ファルク
『だからって!街中に海賊を入れて、中で商売をさせる気ですかっ!?』

テュリウス
『街中に入れなければいい。その為の外商許可だ』

ファルク
『そんな事を認めれば、この街はスク―マなどの麻薬の温床になってしまう!』
120
テュリウス
『海賊たちは麻薬を持っているのか?
スク―マを商売の道具に使っているのか?』

ファルク
『え・・・?』
121
テュリウス
『お前はそれを見たのかと聞いているんだ!?』

ファルク
『そ、それは・・・』
122
テュリウス
『私個人の考えではあるが、私は憶測だけで物事を進める事を好まない。
”将”たるもの、いつ何時においても、確たるモノが無ければ決定してはならぬと、私は考えている』

ファルク
『うぅ・・・』
123
テュリウス
『人が犯罪に手を染めるのは、貧困という現実がそうさせている場合が多い。
中にはそうでない者も確かにいるが、それでも、人は生まれつきの”悪”ではない。
そこに至る過程があってこその結果なのだ。
今では”海賊”などと評価はされているが、好んでその身を落とした訳じゃない者もいるはずだ』
123-1
ファルクは反論ができなかった。

テュリウス
『それを考慮すれば、機会を与えてやる事こそ、エリシフの為にもなると思わないか?』
124
名宰相として噂高いファルク・ファイアビアードが、完全に押し返された瞬間だった。
結局テュリウスのこの強硬とも思える策は、押し通されたのである。
125
だが彼の考えはこれだけではなかった。
この事を餌に、海賊たちの共食いを狙ったのである。
その為に中規模団体に最初に情報を流した。
126
大規模な団体になると、自分達こそが優遇されるべきだと思い込んでしまう。
成り上がり者ほど自己満足は高い。
それ故に何故自分達にご指名が来ないのかと、それ以下の団体は妬みや羨望の対象になり易い。
単純に数字で考えれば【1】【2】【3】と三つの数字があった場合、3-2=1であり、残った1-1で0という事になる。
127
帝国軍にしてみれば、余計な戦力を割く必要もなく、勝手に自滅してくれるのだからこの上なくありがたい話である。
だがそれでも生き残る者がいるのも事実だった。
もしそれでも帝国軍に反抗するようであれば、その時軍を動かせばいいだけである。
たとえハメられたとわかったとしても、反抗さえしなければ、もう失う物は無いので、従えばいいだけなのだ。
128
結果、現在のスカイリムの海賊と呼ばれる団体は、主に二つの勢力に納まった。

ソリチュードの東側に停泊している【ヴァゴス】を頭目とした【デインティ・スロード号】
ソリチュード港に停泊している【サフィア】を頭目とした【レッドウェーブ号】

そしてアデライサが目の敵としている【ハルディン】率いる【ブラッド・ホーカー】である。
ブラッド・ホーカーだけが、最後まで帝国に反抗し続けている海賊であった。
129
だがどうしても見過ごせない組織が、もう一つだけあった。
【ブラック・ブラッド団】と呼ばれる、不気味なスキンヘッド集団である。
彼らは元々盗賊ギルドだったらしいのだが、盗むだけでは飽き足らず、殺人・誘拐・拷問・監禁と、金になるなら何でも有りの凶悪犯罪集団の組織として、帝国が目を付けている。

もしもこれから来る輸送船を襲うとしたら、ブラッド・ホーカーと、このブラック・ブラッド団の二つが上がっていた。
130
しかしアデライサには、またも大きな困難が降りかかる。
ソリチュードには帝国軍の兵士は、2000人程いる。
内、彼女が直接に動かす事ができるのは、東帝都社所属の兵士50名のみとなっている。
そこにソリチュード衛兵を加えても、100人強程にしかならない。
残りの1900人は、本国あるいはテュリウスの直接的な命令が無い限り、ソリチュードから一歩も動く事を許されていないのである。
残念ながらエリシフにも、彼らをどうこうできる力は無かった。
132
止む終えずアデライサは、ホワイトランのテュリウスの元に手紙を送り、兵を動かす許可を求めた。
しかし、その返答はややも冷たいものだった。
133
テュリウス
”ソリチュードが最も恐れるべきは、ウルフリックによる北東からの進軍である。
【鶏を割くに焉(いずく)んぞ牛刀を用いん】という言葉がある。
山賊や盗賊、または海賊如きに正規の軍隊を動かしてばかりいたら、それこそ周辺住民の恐怖を煽る結果になる。
ソリチュードの帝国兵は、決して動かす事はまかりならない”

軍隊というモノは、今でいう戦車や戦闘機のようなモノである。
コンビニに強盗が入ったからと言って、戦車や戦闘機を用いるなどもっての他だという意味である。
134
しかしアデライサは食って掛かった。

アデライサ
”周辺住民を脅かすために、兵士を動かすのではありません。
これから来る輸送船を守るために、威力として使わせてもらうだけです。
この輸送船が守れなければ、ソリチュードに住まう住民だけではなく、戦地の兵達に送るべき糧米さえも危うくなります。
どうかその半分だけでも、私めにお預けください。
必ず結果を出して見せます”
135
テュリウス
”アデライサよ、そなたの言う【威力】というのが、どれほどのモノなのかは計り兼ねる。
私が言っているのは、ソリチュードから兵士を動かす事自体が、住民の不安を煽る結果になるという事である。
民とは、いわば赤子のようなモノで、兵士の鎧に一滴の血糊が着いているだけで、恐怖するものなのだ。
そして恐怖とは、容易に連鎖して広がり、気づいた時には手の施しようもなくなるモノである。
決して軽はずみな行動だけはするな。
どうしても人手が欲しいと言うのならば、ソリチュード港に停泊しているレッドウェーブ号のサフィアを頼るべし
136
”海賊”の事は”海賊”に聞け と言うのである。

やむなくアデアライサは、サフィアと会合する事になる。
この”サフィア”こそ、テュリウスが一番最初に条件を持ち掛け、そしてその条件に乗ってきた人物である。






137
アデライサは、助手のオルサスを伴って、案内役の船員の後に着いて行く。
生まれて初めて海賊船に乗船する事に、少しの緊張感があった。
散らかし放題に荒れ放題かと思いきや、船内は思った以上に整理整頓が成され、きちんと掃除も行き届いており、時折棚の上に花が飾られていたりする。
海上で生活しているせいか、確かに魚の臭いは漂っているものの、海の荒くれ者が生活しているような環境にはとても見えなかった。
138
そしてサフィアと対峙する。
アデライサ達は、彼女の顔に描かれた強烈な戦化粧に釘付けになった。

サフィア
『まぁ、そうしゃっちょこばるなよ将校さん。座れよ』

だが彼女は、思ったよりも気さくに話しかけてきた。
139
サフィア
『驚いたかい?』

アデライサ
『う・ぁ・・・な、何が?』




140
サフィア
『あたしの顔さw
あたしを始めて見る人間は、み~んなあんたみたいに、見世物小屋を見ているような目をするか、オドオドする奴ばっかなんだよ』

アデライサ
『・・・』
141
サフィア
『ま、こっちとしちゃ、この顔のおかげで、商売もトントンってところだし、何よりあたしの命を狙おうなんて輩も、随分と減ったしねぇ~』

アデライサ
『貴方、命を狙われているの?』
142
サフィア
『仕事が仕事だしさ、そういう事も何回か経験しているよ。
ぜ~んぶ返り討ちしてやったけどねw』

命を狙われているかもしれない人間にしては、随分と明るく話す女。
やはり海賊という荒くれ者を纏めるだけある、”女傑”とでも言うべきか・・・
143
サフィア
『なぁ将校さんよ、さっさと本題と行こうや』

アデライサにとっても、それは賛成だった。

サフィア
『で?あたしらがあんたらを手伝ったら、あんたらはあたしらに何をしてくれるんだい?』
144
心外な事を言うものだと、彼女は怪訝そうな表情を浮かべた。

アデライサ
『何を言っているの?
あなた達は、私達帝国軍の手助けをする事が条件で、ソリチュード港に停泊する事ができているのよ?』
145
サフィア
『それは帝国軍との取り決めだ。
あんたは東帝都社の人間で、軍とは違うだろう?』

どうやらこのサフィアという人物、見た目以上に切れ者の様だ。
アデライサは完全に痛い所を突かれた。
146
アデライサ
『私の事を随分と調べているようね?』

サフィア
『ソリチュードじゃ、今やあんたは有名人だもんなw』
147
有名人=不幸を招く女・・・
148
サフィア
『でも、気持ちも解らんでもないさ。
ウィンドヘルムでの出来事は、何もあんたの責任って訳じゃないし、あんたがソリチュードに来たからって、・・・え~っと・・・ヴィットリアだったっけ?
あの女が殺されたって訳じゃない。
裕福な連中は、噂がどうこうよりも、自分達に被害が及ばぬよう、隣が鳴けば自分も鳴かないと、仲間外れにされちまう。
それが嫌なだけさ』

アデライサ
『そこまで言うなら・・・』
149
サフィア
『おぉ~っと、それとこれとは話は別だ”将校さん”。
そうだろう?
あんたは、あたしらに、昔の同族を裏切り、命を掛けろと言っているんだよ。
当然、それなりの見返りがなきゃ、あたしらだって動くはず無いだろう?』

150
アデライサ
『望みは、なに?』

サフィアは急に真顔を見せる。

サフィア
『・・・あたしらも東帝都社の倉庫に入れてほしい』
151
アデライサは驚く。
あの倉庫に入れるの者は、東帝都社の社員だけに限られている。

アデライサ
『じょ、冗談じゃないわ!
海賊を東帝都社に加えろと言うの!?・・・あり得ない!!』
152
サフィア
『なんでだよっ!?』

サフィアはテーブルをグーで叩き、いきり立つ。

サフィア
『あたしらは元々、アンタたち東帝都社の品物を運んでいた商船の船乗りだったんだ!
ソルスセイムの黒檀を運んでいたのに、ヴィットリアのクソアマが、いきなり取引を中止しやがったせいで、あたしらは路頭に迷う結果になっちまった!』

ウップンを晴らすか如く、声を荒げた。
153
サフィア
『売り手を探すのに必死だったよ!何せあたしはこの船の船長だからね!!
部下を食わせなにゃならない!!だから”海賊”になったのさ!!
誰が好き好んで”賊”なんて名乗るもんかっ!!』

あまりにイキナリだったせいか、アデライサは圧倒され声を喉に詰まらせた。
154
サフィア
『あんたはっ!!ウィンドヘルムで倉庫番やってたんだろ!?
だったら、帳簿にうちの船の名前くらい書いてあったはずだ!
見てねーのかよ!?』
155
アデライサ
『・・・』

彼女は完全に言葉を失ってしまった。
156
サフィア
『チッ!これだから軍属ってのはよっ!!
上から目線で話せば、あたしらには何でも命令できると思ってやがるんだ!!』
157
トップの勝手な決断が、そこに商機を得たはずの下請け業者にまで影響を及ぼすなどという事は、封建社会においては珍しい話ではなかった。
とは言え、サフィアの言う通り、自分は何も用意せずに、土足で交渉相手の領地に足を踏み入れてしまった。
代わりに元海賊と呼ばれていた者が、ここまで自分の事を値踏みしていたとは、思いもよらなかった。
いずれにせよ、帝国というバックグラウンドを盾にして、自惚れた態度をとってしまった事に恥じ入るしかなかった。

サフィアは、少し間を空けてから口を開く。
158
サフィア
『で?どうするんだい将校さん?』

アデライサ
『・・・少し考えさせてほしいわ』

輸送船の到着まで、まだ時間がある。
アデライサは事を急がず、慎重に運ぼうと考えた。



159
ヴィットリア・ヴィキが亡くなってから、ソリチュードの東帝都社の代理責任者はアデライサに任されていた。
だが、事実上の社長代理となると、首長のエリシフを於いて他はいない。
なので、アデライサはブルーパレスに参上し、首長を含め重臣達と協議する事にした。
160
【海賊を東帝都社の一員として組み込む】

こんな事を容易に認めてくれるほど、お上は甘いものではない。
161
何より宮廷の者の方が、そんな話を耳にするだけで恐れおののき、悲鳴を上げる程である。
テュリウスの手紙の内容が、よく理解できた瞬間だった。
162
だがこの事について、一人だけアデライサに賛同してくれた人物がいた。
エリシフのもう一人の従士”エリクール”である。
163
エリクール
『エリシフ首長。
この問題は、東帝都社の威厳と尊厳の問題でもありますが、長年帝都との繋がりが深いブルーパレスの対面問題にもなってきます。
それだけに無視する事は、皇帝陛下にも面目が立たず、下手をすれば元老院にも注視されてしまう危険性があります』
164
エリシフ
『エリクール、私は無視する気などないわ。
ただ、夫のトリグが残してくれたこの城を、辱めるような真似だけはしたくないだけよ』

エリクール
『さようでございますか・・・』
165
すると執政のファルクが、エリクールに視線を移す。

ファルク
『何か良策でもあると?』
166
”きたな・・・”
エリクールは心中でほくそ笑んだ。
167
エリクール
『要は”海賊”を入れなければいいのです』
168
エリシフ
『言っている事の意味がわからないわ?』
169
エリクール
『東帝都社で働く者には、決まった服を支給し、これを彼らにも着せるのです』
170
ファルク
『なるほど・・・制服制度か・・・』

エリシフ
『でもそれでは”海賊”と分からなくなるだけで、彼らが行いを正す事には繋がらないわ』
171
エリクール
『彼らの行動に見張りを付ければいいのです。
罪を侵せば厳罰な処置を施し、減給処分、行動の制限などなど・・・この程度ならこちらでいくらでも操作は可能です』

それでもエリシフは、いい気分になれなかった。
エリクールには、彼女が迷っている事が手に取る様にわかった。
171-1
エリクール
『エリシフ首長。
嘗てテュリウス将軍が行った一掃作戦のおかげで、残った残党は少なくはなっています。
ですが生き残った者は、精鋭中の精鋭。
ソリチュードの衛兵や東帝都社の兵士だけでは、猛者揃いと思われる襲撃者達と、まとも戦う事など不可能に近いと思われます』

アデライサを含め、側近たち全員がエリクールの話に耳を傾ける。
172
エリシフ
『ですが、私の力では、帝国兵を動かす事はできません』

エリクール
『ならば選択肢は限られております。
彼らに手を貸してもらうしか、方法は無いかと・・・』
173
そこにファルクが続く。

ファルク
『私もエリクールの意見に賛成です。
”海賊”を東帝都社の一員として迎え入れる事には、遺憾ではありますが、
シロディールからの輸送船を守れなければ、ソリチュードの市場が止まってしまう危険性があります。
遠征軍に送る事ができなければ、テュリウス将軍はホワイトランを諦めねばなりません。
そしてそれらの不満と責任は、自然と宮廷に向けられてしまいます。
それは即ち、首長である”あなた”に向けられるという事です』
173-1
エリシフは一瞬背筋に悪寒が走った。
174
エリクール
『ファルク殿の仰る通りです。
ソリチュードの民は、勤勉で働き者は多いですが、噂好きでもあります。
宮廷で妙な噂が立てば、瞬く間に広がってしまい、それは帝都の失墜にも繋がりかねません。
そうなれば、元老院はあなたをこの城から排除し、別の者を立てる可能性もあります』
175
エリシフは、首長である以上まとめ役でもあった。
上級王だった夫の突然の死。
ウルフリックの反乱。
シロディールからの帝国軍の専横。
ただでさえ女の身であり、そして代替えの首長である。
176
引き籠りたい、もう何もかもを捨ててしまいたい、毎日そんな悩みに振り回され、毎朝自然と恐怖していた。
だがそれでも、このプレッシャーに必死に堪え続けていた。
自分を支持してくれる者、頼りにしてくれる者、夫の威信を損なわないように、市民を裏切らないように・・・
177
彼女は両手で顔を覆い隠し、前かがみになって声を潰す。
それを目にした重臣達が、心配そうに彼女を見守る。
178
束の間、彼女は意を決したかのように顔を上げた。



179
エリシフ
『わかりました。
至急、東帝都社の者に制服を用意させ、”海賊”の者達にも支給させてください。
エリクール、貴方におまかせします』

エリクール
『かしこまりました。
レディアント装具店を中心に至急用意させます』
180
エリシフ
『それと、しっかりと彼らを見張る様にっ!』

エリクール
『心得ております』
180-1
そしてアデライサには、サフィア達の協力を執り付かせ、必ず輸送船を守る様にと強く言い聞かせた。
181
エリクールの助けがあったおかげで、アデライサは一時安堵する。
しかし、彼女は全く気づくことが出来なかった。
”影を歩く者”の存在を・・・


SOS 第十五話EP1 後編に続く・・・




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[備考]

◎東帝都社とシャッターシールド社
共に起源は分かっていません。
社長のトールビョルンが、ブラッド・ホーカーのハルディンと繋がりがあるかどうかも不明です。
ですが、二社の間にはライバル関係は成立しているようです。
それを裏付ける要因として、シャッターシールド社の倉庫は木箱などが多く設置されているが、東帝都社の倉庫はほぼ空っぽです。
お互い切磋琢磨していると表現するより、トールビョルンがウィンドヘルムの輸送業を仕切っている為に、他社の入る余地が無いようみえるため、今回はこういう話を作ってみました。

またトールビョルンは”ノルド至上主義”だと書きましたが、彼の下で働いているスヴァリス・アセロンというダンマーの話から、
『トールビョルンは運送業で金を稼ぎたがっている。それを私が実現させるの・・・』というセリフを聞く事ができます。
差別主義者と言われているようですが、市場でもエルフのニルインとも話をする事があるので、一概に偏った考えを持っている人物でもないようです。

◎ジャフェット・フォリー島
ナディアは最初、氷山を掘って作られた拠点かと思っていたのですが、所々に土があったので”島”だとわかりました。
元々は誰もいなかった島に、ジャフェットという男が仲間を引き連れ入植し、ここで砦を築いて生活を始めたのが最初のようです。

この土地の古くからある呪いに悩まされながらも、なんとか地に足を着けようとしたのでしょうか?
男女の間引きなど、よくわからない行動をとっていたようです。
そのうち物資の輸送が止まってしまい、自給自足を余儀なくされるのですが、ここは辺り一面氷だらけなので作物が育つ環境とは思えません。
最終的には神頼みをしたようですが・・・
この事は、砦内で遺体で発見されるジャフェット本人の日記で、確認する事ができます。
どうやらまともな土地ではないようです。

因みにこの島は、地図ではハッキリと表示されません。
地域的には北東のウィンターホールドに属しているらしく、クエスト『東から昇る』の舞台となる島で、一回っきりのみしか行けない場所です。
コンソールで向かう事は可能です。

◎テュリウスの一掃作戦
ここはバニラには無い要素です。
テュリウスがスカイリムに着任して、3年の間いったい何をしていたのか?という事の一部として設定しました。
この時の”賊”は海賊だけではなく、山賊や野盗なども含まれています。
例え同じ帝国市民であったとしても、シロディールとスカイリムは別の国であり、また見た目も恐ろしい外国人が押し寄せてくるようなモノです。
ましてシロディールに比べればスカイリムは、文明の差も否めないかと思われます。
なので、そんな不安を少しでも軽減するために、”軍隊”がやれる一番手近な方法として立てた作戦です。
ある意味常套手段とも言えます。

◎海賊とは・・・
島嶼(とうしょ)や沿岸を根拠地として武装した船舶により海洋を横行し、武力を用いて航行中の船舶や沿岸の部落から収奪を行う組織の事。
(Wikipediaより)
とあるのですが、国などが金品などを代償に盗賊行為を取り締まる側に立つ場合もあるそうです。
なので、時には軍の代わりに国の為に行動を起こす組織もあったらしく、正規の軍隊(特に海軍)との境界が曖昧な所が多い。
また、交易などの商売を目的としている者が、交渉決裂や競争相手とのいざこざにより海賊と化す場合もある。
おそらく、海域などの関係上、亡命するために止む無く”賊”を名乗ったり、なんてのもあるのかもしれません。
いずれにせよ、賊は賊でも、特殊な部類に入る”ならず者”とでも言うのでしょうか?

今話においてテュリウスが彼らに撒いた餌、すなわち”外商”なのですが・・・
極端に説明すると、”ソリチュードにいてもいいけど、商売は自分達の船の中でやれよ”という事だと思ってください。
なので、ファルクが麻薬が横行するかもしれないと懸念しているのは、この事を言ってます。
ただテュリウスは、この辺の事を全部加味した上で、”やれ”と言ってるのです。

というのは、スカイリムで諸外国と最も交易が盛んなのは、皇族との繋がりが深く、東帝都社の拠点があるソリチュードだけだと思われます。
ホワイトランは内陸に位置しているため、諸外国よりも国内の貿易の中心地、という違いでしょうか。
ヴィットリアが皇族である以上、ソリチュードが閉鎖的であったとしても、諸外国との繋がりがあったおかげで、なんとかやってこれた・・・
が!このままだと、スカイリムはソリチュードばかり発展して、他の都市はドンドン衰退していく可能性を孕んでます。
となると、隙あらば帝国を貶めようとする他国の侵入を許してしまいかねない恐れが出てくる。
だから、もっと広い見方をして海賊でもいいから、人を入れて町を発展させましょう・・・とテュリウスは説いているという事です。

とまぁ非合理的な感じもしないでもないですが、なんとなくわかってもらえるとありがたいです(;´Д`)

◎デインティン・スロード号の船長は?
この船のバニラの実際の船長は【ヴォルフ】という人物らしいのですが、麻薬所持の疑いが掛かったらしく逮捕?されたようです。
その後の彼の足取りは掴めていません。なのでCKなどでも見る事ができない人物でした。
なので、新しく別のキャラクターとして【ヴァゴス】と勝手に名前を付けたキャラクターを作成ました。
彼はバニラでは【最初の仲間】というオークです。
CKで『captain』で検索すると、デインティン・スロード号のキャプテン?で出てきたので、代役として彼をこの船の船長にしました。

◎サフィア
ソリチュードの東帝都社倉庫前の港にいつも停泊している船の船長。
彼らは”海賊”です。
何故彼らがここにいるのかが、バニラでは描かれていなかったので、そこにオリジナリティを加えてみました。
ゲーム内での彼女は、闇の一党クエストによって暗殺対象になります。
なので、彼女自身の会話からも分かる通り、何度も狙われた経験がある人物です。

◎ソリチュードの東帝都社巨大倉庫
ここに出入りできるのは、会社関係者のみとなっています。
プレイヤーも、内戦クエストでどちら側になろうと関係ありません。
見つかれば犯罪者扱いされます。

◎軍属
軍人ではないが、軍隊に勤務する者の事。
今回はアデライサに投げた、サフィアの詰(なじ)り言葉に加えてみました。
アデライサは、帝国軍の将校ではありますが、彼女の所属はあくまで東帝都社となっているようです。
帝国軍と東帝都社は、スポンサーは一緒でも、会社に例えたら別個になると思われます。
なので彼女は、軍隊には所属していないとしました。

◎レディアント装具店
ソリチュードにある着衣専門のお店。
二人のハイエルフが経営しており、ブルーパレス御用達のお店でもある。





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