【お断り】

今話の内容についての注意でございます。

今回舞台として使用しているMODですが、『Beyond Reach』を使用しています。
MOD内におけるクエストやストーリーには一切関係はこざいません。
ただしNPCや場所を利用いたしました。
おそらくこれらを知ったからと言って、ネタバレに繋がる事は無いと思われますが、
どうしても嫌だという方には、お勧めいたしません。

あっ、あと、何気に長いです(@ω@)





1





2 20-1





5

ポエットは、グレイムーア砦とホワイトウォッチの守りをイオナとジョディスに任せ、
リディアには明日の出発に備えて休んでもらう事にした。

リディア
『ウィンドヘルムに行っている間に、何もしてこなければいいんだけど・・・』

ポエット
『帝国は負戦(まけいくさ)をした訳ではないので、それほど遠くない話だと思います』

リディア
『大丈夫なの?』

ポエット
『ホワイトランの布陣は終えているので、帝国軍も不用意に近づいては来ないと思います。
でも、どのみちそれを心配しても変えようがありません。
それに私達の今後も、ウルフリックに謁見してからでなければ始まりませんから』5-1
事実ポエットは、リフテンの兵を勝手に動かしてしまったという負い目がある。
ウルフリック自体は、お目こぼしをすると思われるが、
参謀であるガルマルならば、おそらく交渉の一つとして利用してくる可能性はあるだろう。

これからはナディアを真に支えてくれる人物が必要になってくる。
同じ方向性を持ち、なお傍にいてくれる人といえば”リディア”しか見当たらなかった。
そういう理由もあり、彼女のウィンドヘルムへの同行は、ポエット自身の強い希望でもあった。

のだが・・・
6
自宅に戻ると、いつものナディアの席に、見慣れない人物の姿が目に入る。
ナディアとアルギスが並ぶように座り、三人で談笑していた。

リディア
『だ、誰っ!?』

ナディア
『あふぅ~(*‘ω‘ *)
リディア!
ポポちゃん!
おかえりなのだぁ~(^◇^)』

ナディアが笑顔で手を上げ二人に答える。
6-1
リディアとポエットには、彼女の”尖った耳”が先に目に入った。

リディア
エルフ!?なんでエルフがここにいるのよっ!?

彼女は警戒するように口にする。
7
ナディア
『紹介するのだ^^
ナディアのお母さんなのだぁ~(^◇^)』
8
リディア・ポエット
『え”っ?』




9
ロザリー
『気にしないで大丈夫だから^^』

リディア・ポエット
『も、申し訳ありません...m(_ _;)m』

二人とも頭(こうべ)を垂れる。
9-1
ロザリー
『でも、エルフに警戒しているってことは...サルモールかしらね?』
10
ナディア
『あふぅ!!サルモールはっ』

ポエット
ナディアっ!!...』

ナディア
『あふっ!』

咄嗟にポエットがテーブルを叩き、ナディアの言葉を遮った。
11
ポエット
さ、さ、サルモールはですね!えーと、えーとですねぇ~

彼女は戸惑いを隠せない。

ロザリー
『何か訳ありのようね^^
心配しなくても大丈夫よ、私はサルモールとも、自治領とも繋がりは無いから^^』

ポエットは、ホッと胸をなでおろした。

エルフはどこにスパイを放っているかわからない。
特にサルモールは要注意であり、今の状況を考えればロザリーに対して警戒するのも当然だった。
とはいえ、相手がエルフではなかなか口火を切れない。
12
リディア
『あ、あのぉ~エルフですよね?』

恐る恐る口にする。
リディアが先発を務めてくれた。

ロザリー
『そうよ^^私はエルフよ^^』

リディア
『ナディアは”お母さん”と言ってましたが...?』

疑わざる得なかった。

ロザリー
『お母さんと言うか...う~ん、まぁ~養母(ようぼ)って所かしらね^^;』
13
ナディア
『あふっ!
ロザリー夜母(よぼ)だったのだっ!?』

ロザリー
『そんな訳がないでしょぉ~もぉ~』

ナディア
『あふぅ~...そうなのだぁ...』

ロザリー
あなたは、甘い物に直ぐくっ付いて行っちゃうんだからっ!
変なのに関わっちゃダメよっ!

ナディア
『あふぅ~('ω')』

なんだか余計重苦しい空気になってしまった...
14
ナディア
『そうだ!!ルシアとソフィを呼んでくるのだ^^ノ
ロザリーちょっと待っているのだ!!』

そう言うとナディアは飛び出していった。

リディア・ポエット
-えええっ!!-
15
アルギス
『やべ!俺もそろそろグレイムーア砦行かないと』

リディア・ポエット
-なにっ!!!-

アルギス
『お袋さんワリーなぁ、仕事がるからよ^^まぁゆっくりして行ってくれ^^』

ロザリー
『お仕事頑張ってくださいね^^』

ロザリーの満面の笑顔にアルギスはデレデレだった。

リディア
-おのれアルギス!意味の解らない格好しやがって!後でイオナに言いつけてやる!!-
16
目の前に見えない重石でも落ちてきたか用に、しばしの無言な時が漂う。

ナディアと契りを交わしたリディアにとってみれば、初めて合いまみえた姑である。
しかも突然現れた”ハイエルフと”来ている。
どう対応していいのか・・・かなり頭を悩ませた。
17
ロザリー
『ルシアとソフィって誰の事かしら?』

二人の重石など、微塵も感じていないような口ぶりで、ロザリーは言葉を発した。

リディア
えっ!?・・・あ、えっと、よ、養子ですぅ^^;』

ロザリー
『あら、ナディアに養子がいるのぉ~驚きだわ^^』

ロザリーはニコニコしている。
18 81-1
ポエット
『あのっ!お、お聞きしてよろしいですか?』

流れを変えようと、ポエットは口を開いた。

ロザリー
『どうぞ^^』

ポエット
『ナディアとは...どこで出会ったんですか?』

リディア
-ナイス!ポポちゃん!!-
19
ロザリーはカニスの根茶を一啜りすると、ゆっくりと口を開いた。

ロザリー
『そうねぇ~...あれはぁ、私がウィスパーズ大学で教鞭を振るっていた頃に...』

ポエット
『ウィスパーズ大学って...たしか...』

ロザリー
『シロディールの魔術師大学よ^^あの時、昔の友達から手紙が届いたの』






20
ハイ・ロックでは嘗て【西の歪み】と呼ばれた、不可思議な事象が起きた事があった。
一説によると、イリアック湾で何かが爆発し、その翌日には44あった国が4つだけを残して壊滅したんだそうだ

やがてオークを主とするオルシニウムという国が、帝国に対し統治を求めてきた。
帝国はそれを認めず、オーク達との戦いになる。
彼女はこの戦に参戦していた。
20-1
向かうところ敵無しだったロザリーは、オーク達にとって忽ち恐怖の対象になった。
彼女の扱う毒魔法のあまりの残酷さから、その姿を目にしたオークは『毒エルフが来た』と叫び、警戒されるようになったのである。

帝国はそんな彼女に『マスターウィザード』の称号を与え、その後も様々な紛争に参戦する様になった。
2 20-1
だがある時、囚われの身となっていたはずの少女に、誤って毒の結晶を突き刺してしまう。
5歳にも満たない少女は、もがき苦しみ、やがて萎(しお)れた花のように命を枯らしていった。
それを目にした彼女は、自分の犯してしまった罪に酷く苛まれるようになる。

以後彼女は、自ら作り出した毒魔法を封印、軍を去る事にした。
そして大学に戻り、教鞭を振るうようになった。
だが破壊魔法専攻の彼女は【毒魔法】を封印した事によって、大学内での他の講師及びアークメイジに至るまでの嫉妬の的になってしまう。
20-2
この手紙は、そんな時に来た嘗ての戦友からの物だった。

だが破壊魔法専攻の彼女にとって、治癒は専門外に等しい。
それに何より、戦争で犯してしまった自分の罪と向き合う気には、どうしてもなれなかった。

最初の手紙は断りの返信をした。
だが次に来た手紙に心を動かされる事になる。
21





22
数日後、ロザリーはリーチのレイブン・スプリングスの城門前に立っていた。
この地に足を踏み入れた瞬間から、異様なほど重苦しい気配を感じ取った。
空には灰色の雲が佇み、まるで泣いているかのように頻繁に雨が降る。
地面は水を吸った土が泥化しており、容易に足が地にめり込んでしまう。
空気が常に湿気を帯びており、淀んだ臭いが漂っている。
思わず呼吸をするのも躊躇(ためら)ってしまう。
そんな場所だった。
23
城門をくぐり中に入った瞬間、いきなり大きな炎が目に入り込んできた。

篝火だろうか...多くの兵士達がその周りに集まっていた。
だがよく目を凝らすと、どうやら何かを焼いているようだった。

彼女は思わず目を疑った。
人だ...遺体を焼いている...
焦げた臭い...人が焼ける臭いだった。
23-1
こんな事、戦場にいた頃は、気にも掛けなかった。
だがそれは遥か昔の話であり、今は不気味な前兆にしか思えなかった。
23-2
近くにいた衛兵が『何の用だ?』と声を掛けてきた。
ロザリーは事情を説明すると、彼は何も言わず聖堂に案内してくれた。
24
むせ返るほどの嘔吐物の異臭が、部屋中を漂っている。
町民が横になって苦しんでいるようだが、何故か皆一様に体を縛られていた。

マウリシオ
『ロザリー...やっと来てくれたんだな』

彼女を目にしたマウリシオが、縋(すが)るように声を掛けてきた。

ロザリー
あなた...ホントにマウリシオ?

その変貌ぶりに彼女自身驚いていた。
毛髪は抜け落ち、顔にはシワが増え、立派で分厚い白髪髭(しらがひげ)を蓄えている。
若かりし日の彼の面影は微塵もなかった。

マウリシオ
『俺はインペリアルだ...君とは違う...』

エルフは長寿である。
中には1000年生きる者もいる。
ロザリーはそのギャップに初めて遭遇した。
24-1
ロザリー
『何故縛ってるの?』

気を取り直して彼女は聞いた。

マウリシオ
『暴れるんだよ...病が発症すると、患者の体から黒い筋が現れる。
目を見開いて、次の瞬間悲鳴を上げて無差別に襲い掛かってくるんだ』
25
マウリシオ
『あまり近づかないほうがイイ。子供でも片手で大岩を砕けるほどの怪力になる』

ロザリー
『他に症状は?』

マウリシオ
『酷い嘔吐を何度も繰り返す。だから...食べ物を受け付けない。最後には...』

ロザリー
『吐血ね...ということは、衰弱か失血死が原因ね』

彼女は毒の可能性を感じ取った。
26
ロザリー
『発症から死ぬまでにかかる時間は?』

マウリシオ
『大体は5日。長くても一週間持った者はいない』

おおよその検討がついた彼女は、マウリシオに言った。

ロザリー
『今から言う物を町中から掻き集めて』

彼は指示された材料を片っ端から集めた。
【山の青い花】【小麦】【巨人のつま先】
それはタムリエルにおいて、体力を回復に導く基本的な錬金レシピだった。

ロザリーは患者の症状から、ある毒が頭に浮かんだ。
【マッドマン】と呼ばれる激毒である。
27
毒が血液を循環し始めると、血液の色が黒ずんでくる。
やがて激しい鼓動が始まり、心痛と多量の汗をかきながら、痛みから逃れるため暴れまわる。
血流が激しくなるため、血管が皮膚を押し上げて黒く枝別れした文様が体中に姿を現す。
脳が本能的に痛みから逃れようと、鎮痛と興奮成分を過剰に分泌させるため、一時的に興奮状態に陥る。
だから周りにいる者に見境なく襲い掛かるのだ。
27-1
しかしそれは一時的な事なので、やがて興奮は収まる。
だが体は異物に対し拒絶反応を起こすので、毒が抜けるまで嘔吐を繰り返す。

マッドマンに対する中和剤は存在しない。
ただし、死の原因は嘔吐による衰弱が殆どなので、根気強く体力回復の薬を服用させることが一番だった。28
ロザリーはマウリシオが集めてきた材料を使い、できるだけの薬を錬金台で作成し始めた。
錬金術は、作成する者の持つ技量によって効果に大きな差が生まれる。
毒学に詳しい彼女にとって、錬金術は基礎の基礎に等しかった。
なのでその技術も一級品だったのだ。
29
マウリシオ達には、ある道具の作成を指示した。
薬瓶の半分を丁寧にのこぎりで切り落とし、瓶の口に牛の腸で作った管(くだ)を付けジョウゴ状の物を作らせる。
患者の口から直接胃に入るよう、無理やり食道に管を突っ込む。
そこから薬液を流し込む作業を、日に三度繰り返すよう指示を出した。

最初は薬液を吐き出す者が後を絶たず、効き目がないのでは?
と不満を漏らしいていたが、ロザリーは腸(はらわた)の洗浄をしている状態だと説得した。

三度目の投薬になると大概の患者の嘔吐が止まり始めた。
薬の効果がようやく見え始めたのだ。
30
だが、ここに来て新たな問題が発生した。
材料不足である。

ロザリー
『外に行って集めて来るしかないわね』

マウリシオ
『残念だが、もうできない...』

ロザリー
『どうして?』

ロザリーは眉を顰(ひそ)める。

マウリシオ
『城外への外出禁止令が出た...』

ロザリー
『そんな!?体力回復にはもう少し時間が必要よ!それには薬が必要だわ!』

マウリシオ
『この毒は外から来た可能性が高い。
フォーローン周辺にも病人はいるんだが、傭兵崩れの野党どもが、あちこちに陣取っていて近づけないんだよ』

ロザリー
『なら、討伐隊で追い出せばいいじゃない!』

マウリシオ
『今のレイブン・スプリングスには、そんな力はない』
30-1
ロザリーは悟った。

ロザリー
『つまり...城の中まで感染が広がっている事を、彼らに悟られる事が恐いのね...』

マウリシオ
『そういうことだ...』
30-2
ハンマーフェルは、レッドガードという人間種が支配する隣国である。
かつてここは帝国領だったのだが、白金条約によりアルドメリに譲渡されていた。
だが、元々独立が希望の彼等は、侵攻するエルフ軍に戦いを挑んだのである。
およそ5年に及ぶ戦争のすえ、ストルス・エムカイ島にて二次条約を結ぶことで独立を果たしていた。
30-3
戦争というのは様々な形で爪痕を残す。
腕に自信が有る者は、軍に所属しなくても、その身一つで商売が成り立つ。
所謂傭兵である。
ハンマーフェルには、ドラゴンスターという城があり、この城主が多数の傭兵を抱えていた。
終戦と同時に解雇され、再び争い事を求めて他国に流れて行く者も少なくない。
だが仕事が得られないと、山賊や野党などに身を費やす者もしばしばいる。

ハイ・ロックは分裂が激しい土地でもあるため、彼らのような無法者にとっては、一時の住処(すみか)になり易い。
だが厄介なのは、野心を持った一部の金持ちである。
彼らは自分の望みを形にしようと、傭兵を雇い入れ、小さな土地を占領地と称し、周辺の町を脅す恐怖分子となる。
これが嘗てのドラゴンスターの傭兵達であり、今の傭兵崩れの姿だった。
30-4
またこの国は、帝国領土であっても、貴族階級における領土や派閥紛争があちこちで起きており、平民達はその火種を受けて、土地を追いやられたりする事が頻繁におきていた。
だがそういう事例は、何も平民に限った話ではない。
治安が不安定故に、内戦と同時に脱獄する犯罪者もいれば、不意に犯してしまった罪のお陰で土地から逃げる者もいる。
そして中には、位の高い者が冤罪などで追放されたりもする。
不思議とそういう不遇な者同志が集まり、流民となってあちこちを転々しつつも、小さな部落から隠れ里などを作る事もしばしばだった。

彼らの中には、後に危険人物と判断され、暗殺の対照にされたりもする。
仕事を無くした他国の傭兵達に取って、これは格好の餌に成りえる訳だ。
なので傭兵崩れと言っても、貴族と繋がっていたりもする。
もっとも彼等にとっては、いつでも切り捨てられる都合の良い駒だとも言えるだろう。

いずれにせよハイ・ロックには、正式な統治者が居ないせいで、混沌が慢性化し、治安の悪化が近年の最もな問題になり始めていた。
30-5
ロザリーは領主に直接掛け合うことにした。

だが入口の近衛兵に拒否されてしまう。
病気を邸内に持ち込まれては困るとの理由であった。
だが彼女は必死に訴えた。

ロザリー
ここには沢山苦しんでる人達がいるのよっ!
私は彼らを助けるために、薬を作りたいだけなの!
その為の材料が欲しいのよ!

近衛兵A
『好きに探しに行けばいい』

ロザリー
『町から一旦出たら、もう入城ができないって聞いたわ!?』

近衛兵B
『その通りだ。ここ何日かで戦況が変わったからな』
30-6
ロザリー
だから領主に直談判したいのよっ!

近衛兵A
『それは我々の領分ではない。もちろんお前も同様だ』

近衛兵B
『それに、”許可の無い者は通すな”との命令が出ている』

近衛兵二人の淡々とした返答に、ロザリーは苛立ちを現した。
31
ロザリー
何よそれ!
領主のくせに病気を染されるのが怖くて、町民に顔も見せらないっていうのっ!?
随分な腰抜けねっ!!

近衛兵A
黙れっ!

彼は語気を強めてロザリーに警告する。

近衛兵A
お前がこの町に貢献してくれている事は認めよう。
だから今回だけは見逃してやる!
だがこの町には、この町の規則がある。
それ以上の領主様への冒涜は、極刑に値するぞっ!

32
ロザリーは両の手に拳を作り、怒り顔で歯ぎしりをした。
流石に極刑と言われれば、引き下がるしかない。
フンッっと吐き捨て、振り向くと、頭の中で想像を超える罵詈雑言を繰り返した。

ロザリー
-役立たず!腑抜け!アホ!馬鹿!死ね!-

他人がダメなら自分がやるしかない!
33
聖堂に戻るなり、彼女はイソイソと荷物を纏め始めた。
その様子を見たマウリシオは目を丸くする。

マウリシオ
ど、どこ行くんだロザリー!?

ロザリー
材料を集めてくるのよっ!

マウリシオ
無茶言うなっ!もう夜になるんだぞっ!!

ロザリー
病人に昼も夜も関係ないわっ!!

二人の痴話喧嘩に、看護をしていた者達の手が止まる。
33-1
マウリシオ
『それはわかるが...
一旦城壁の外に出たら、もう中には入れてもらえないって言っただろう!
それに夜は危険すぎる!』

ロザリー
『ここに来る時、町の南側に水門が有ったのを見たわ。
なんとなればあそこから出入りできるっ!』

マウリシオ
馬鹿な事を言うなっ!
ここじゃ帝国軍もそれほど影響力を持たないんだぞっ!

ロザリー
私を誰だと思ってるの!?マスターウィザードよっ!

マウリシオ
おい!ロザリーッ!

彼女はマウリシオの静止も聞かず、そのまま出て行ってしまった。
34
ロザリーにはもう一つ気がかりがあった。
この毒の発生原因である。

マッドマンは自然界には存在しない。
この毒は明らかに作成されたものであり、人為的なものである。
だからこそ神々の祈りも通じないのだ。

水、農産物、家畜、さらには土壌に農薬など、あらゆる物を調べ尽くした。
が、そのすべてに陽性が出ていた。
となると毒が付着する原因は、大気中に散布された可能性が高い。

子供や年寄りが先だって中毒症状を発症している。
新陳代謝の度合いよりも、免疫の少ない子供、盛りを過ぎた年寄りが優先だと考えると、
毒の許容量が発症の差を生み出している可能性がある。

もしこれが事実ならば、今現在健康体に見える者も、やがて発症する可能性が高い。
子供や年寄ならまだしも、血気盛んな大人が発症し発狂した場合、とても危険な状態が生まれる。
これは町中に限った話ではない、その周辺に住む者も対象となるのだ。
そのためにも、早めに特効薬となる薬を作り出さねばならなかった。
35-1
彼女はリーチ中をひたすら歩き、錬金材料となりそうな物を片っ端から集めて回った。
道端の薬草を摘み。
35-2
山賊や野盗どもの目をかいくぐり...35-3
遥か古代の遺跡を横目にし...35-4
時にはクモの巣と激しく格闘する事もあった。
36
リーチには、ウィッチマンという先住民が、あちこちに集落を形成している。
彼らは、スカイリムでフォースウォーンと呼ばれている、リーチメンの原型だとも云われている。
フォースウォーンと言えば、奇妙な魔術に儀式を行うことで有名だ。
彼らは、ハグレイブンという人間と鳥を掛け合わせた醜悪な魔女を頭として組織していることが多い。
36-1
魔女は不思議な薬や毒を沢山持っていることがある。
ウィッチマンもまた、このハグレイブンを頭としている集団なので、彼らが錬金材料を多量に持っている可能性があった。

ロザリーにとって命がけの材料集めである。
彼らには同族以外の者をすべて敵とみなす教えがある。
よって彼女も例外ではなかった。

【調和】という高等魔法がある。
この魔法は一定期間周囲にいる者の戦意を失わせ、友好的にする変性魔法である。
多量のマジカを消費するが、無謀にも一人で戦いに挑むよりは、ましだった。
37
2日程経過した頃、彼女はレイブンス・プリングスの城外にある集落に戻ってきた。

城門の前で、衛兵と口論をしている男性が目に入る。
彼は両手を広げ何かを訴えていたようだが、衛兵はまったく取り合ってくれる様子も無く、
ついには帯剣を抜き、切っ先を彼に向け『死にたいのか!?帰れっ!』と追い払っていた。

彼は肩を落とし、残念そうに橋の方にトボトボと歩いて行った。
38
彼女はたまらず声をかけた。

ロザリー
『ちょっと待って!どうかしたの?』

彼はグリムベインというアーケイの司祭であり、彼の聖堂にレイブン・スプリングス周辺の病人達が、助けを求めて集まって来ているのだという。
神への祈りが通じないこの病に、多くの人々が苦んでいる。
そんな時、城から抜け出してきた町民の一人が、城内に薬が有ると教えてくれたので入城できないか衛兵と掛け合っていたと云うのだ。

彼女は迷うことなく、彼の手助けをすることにした。
39
聖堂に案内され、中に入る。
レイブン・スプリングスの聖堂で見たモノと、同じ景色がそこにはあった。
漂う嘔吐物の臭い、さらには生々しい血の臭い。
ハッキリ言って、町よりも環境は悪かった。
ただ違うのは、誰一人縛られている様子はない。
おそらく峠を越したのだろうと、ロザリーは判断した。
40
ロザリー
『錬金台はある?』

グリム
『昔はあったんだがなぁ...戦争でみんな持ってかれてしまったよ』

ロザリーは頭を悩ます。
ここにきて錬金台がないとは致命的だ。

ロザリー
『じゃぁ、この周辺で持っている人はいないかしら?』

グリム
『あんな高価な物を持てる家なんて無いよ。城内にでも入れれば...』

考えてみれば、自分もあの中に入れない。
たとえ旨く入り込めたとしても、薬を作ってから戻ってくるのは至難の業だ。
マウリシオに啖呵を切った事を今になって後悔していた。

グリム
そうだ!
蒸留器ならたしか余っていたはずだ!
ガラス製品は取られなかったからな』
41
グリムの言葉に一筋の光明が差した。
蝋燭の火を使えば蒸留器が使える。
あとは乳鉢と乳棒の代用品さえあれば...
42
ロザリーは手近にあるもので仮の錬金台を作り、薬液の作成を始めた。
そしてグリムには、マウリシオ達にやらせた様に、薬瓶のジョウゴを作らせた。
43
旅の疲れや汚れなど微塵も感じなかった、彼女は体が動く限り薬を作り続けた。

グリムは、ロザリーの作ってくれた薬を病人達に服用させる。
症状の改善が見られるにはやや時間は掛かるが、とりあえずは一安心だった。
44
グリム
『いやぁ、あんたのおかげで助かったよ^^』

彼はロザリーに、半切れのパンと湯を渡した。
彼女は一言も発することなく、無我夢中でがついた。
考えてみれば、リーチに来てからまともな食事にありつけたのは、この時だけだった。

グリム
『悪いなぁ...
町がこんな状態じゃなきゃ、もっといい物を出してあげられたんだが・・・』

ふと彼女は気づく、彼らにとってこの半切れのパンは命にも代えがたい物なのだと。
それをガツいてしまった自分が、恥ずかしかった。
45
アガ―――――ッ!!!

次の瞬間、床の隙間から耳を劈(つんざ)く甲高い悲鳴が聞こえてきた。
驚いて声のした方向に目が行く。

ロザリー
今のはなに!?
46
グリムは思わず下を向き、気まずそうに答えた。

グリム
『実は...最初の頃の病人を地下に閉じ込めているんだ...』

ロザリー
なっ!なんてことをっ!!
46-1
ロザリーは慌てて地下に駆け降りた。

グリム
『ちょっ...』

グリムは静止させようと追い掛けるが、後ろめたさが相まって本気になれない。

降りた先には、固く冷たい鉄の扉があった。
開けようとしたが、鍵が掛かっていて開けられない。
47
ロザリー
鍵を開けてちょうだい!!

グリム
『じょ、冗談はよしてくれっ!そんな事はできないよ!...危険すぎる...』

ロザリー
まだ薬はあるわ!助けられるのよ!! 』

グリム
連中は、一週間以上前から閉じ込めているんだ!
48
ロザリー
えっ!?

彼女の脳裏にマウリシオとのやりとりが浮かんだ。

ロザリー
『発症から死ぬまでにかかる時間は?』

マウリシオ
『大体は5日。長くても一週間持った者はいない』

ロザリー
-どういうこと?薬も与えずに一週間過ぎてもまだ生きているなんて?-
49
彼は頭を抱えて嘆いた。

グリム
私にどうしろというんだ!?
私はただのアーケイの司祭だ!
死者を安息の地に葬るのが仕事だ!
そのアーケイに祈っても効き目がない病など!
私にはどうする事もできない!!

ロザリー
いいから開けなさいっ!!!

ロザリーは、彼のゴタクを耳に入れる前に大声で怒鳴っていた。
50
グリムは彼女に絆(ほだ)され、シブシブと鍵を開けると、そそくさと逃げるようにその場を後にした。

グリム
『ひぃ~~ッ!』

肉体的にも精神的にも疲労困憊だった。
”何故”という言葉よりも、湧き上がる使命感だけが彼女を突き動かしていた。

意を決して重い扉を開く。
重厚な扉は、ギギギッ...と不快な音を立ててロザリーを招き入れた。





固唾を飲んで、その光景を目にする。
沢山の黒い影が、唐突に彼女の瞳に入り込んできた。






51
内出血を起こした時のように、皮膚が青紫色を呈している。
所々皮膚が腐り、蛆が湧き、皮が剥がれ落ち、筋肉繊維や骨、歯茎を露呈させ、フジツボの群れのように、瞼(まぶた)の奥に何かが光っていた。
一様に体毛が抜け落ている。
着衣だけが、かつて彼らが人間だった証(あかし)だった。

似たような光景を彼女は目にしたことがあった。
シロディール周辺に点在する、アイレイドの遺跡内にいた"それ"と大差はなかった。
52
中は蝋燭の明かりが所々点在しているが、彼らの陰りがより一層暗さを増していた。
体が降れないよう、間をすり抜け、警戒しながら進む。
唾を飲み込む事さえ、躊躇ってしまいそうなプレッシャー。
だが不思議なことに、彼らはロザリーの存在に対し警戒するでもなく、襲ってくる様子もない。
息を潜め、奥歯を噛みしめる。
眠気が醒めた瞳を見開き、心臓の鼓動さえ聞こえてきそうな慎重さで一歩一歩前進した。
53
暫くすると奥の棺の上に、青白い光を見つけた。
よく目を凝らすと、白髪の小さな子供が、棺の上に座っているではないか!?
彼女の視線は、女性の衣服を身に着けた化け物に向けられ、不思議と笑顔を見せている。

だがその化け物は、大きく右手を振り上げて、その子を殴り落とそうとしていた。
54
ロザリーは自分でも気づかないうちに、自らの封印を解いていた。
毒の結晶が脇腹を大きく貫く。
化け物の動きを止めるには十分な大きさだった。
55
少女
ママ...?

少女にママと呼ばれた”それ”は、壁を頼りに崩れ落ちる。
両手を前に出し、支えようとしたが、気づけば目だけが姿を追っていた。
56
ロザリーはハッと気づいて彼女の元に駆け寄る。

ロザリー
『あなた大丈夫?怪我はない?』

少女
『ママ...』

少女の問いかけに、”それ”は息も絶え絶えの様子だった。
だがその片手が、ロザリーの服の裾をガッチリと握っている。
60
彼女は化け物の方に目が行く。

化け物
『こ、これを...』

ロザリー
-しゃ、喋った...?-

ロザリーには分かった。
この女性は瞳の周囲だけだが、確かに人の時の面影を残している。
言うことを聞かない体を動かし、血液の混ざった涙を溢れさせ、必死に何かに抵抗している事を。

化け物
『これを...おねがい...』

嗚咽と枯れたような、または魂を削ってまで発している声。
小さな青い宝石をなんとか指の間に挟み、ロザリーに渡すと、そのまま息を引き取った。
61
少女
ママ―――――――――ッ!?






62
少女の悲痛な叫びと共に、今まで大人しくしていた化け物達の視線が、一斉にロザリーに向けられる。

グガガガッ―――――!!

例えようのない呻き声を上げ、そして群れを成して襲い掛かってきた。
63
彼女は少女を力いっぱい抱え、眼前から襲い来る脅威に向かって毒の結晶を撃ちまくった。
無我夢中で撃ちまくり、化け物の壁を少しずつ押しのける。
63-1
少女
ママ――――――――ッ!!

引き離された少女が、ロザリーの耳元で叫ぶ。
暴れようとする彼女を片腕で締め付け、押さえつけた。
63-2
腐臭と肉の塊を振り払い、殴りつけ、蹴とばし、体当たりし、
思いつく限りの戦闘術を駆使し、必死に血路を開いた。
63-3
迫りくる恐怖を背後に感じつつも、なんとか元の位置に戻る事ができた。
64
急いで入口をくぐり抜けると、ドアを閉め、近くにあった鉄のシャベルを杭にして閉じ込めた。

少女
ママ――――――!?
しめないでっ!
あけてぇ―――!!!!

ロザリー
ダメなのっ!開けられないよっ!!

少女
やだやだやだっ―――!!!

ロザリー
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!

扉の向こうに戻ろうとする少女を、両腕でしっかりと抑え込んだ。
肩から指先に至るまで恐怖が伝わり、力が抜けそうなくらい震えているのがわかる。
少女の押し返す力より、自分の弱さに負けまいと必死に抵抗し、押し返した。

ロザリー
『ごめんなさい...ごめんね...』

少女を守る事の方が大切なのだと、心の中で自分に叫んだ。

ロザリー
『ごめんね...本当にごめんね...』

...謝る事しかできなかった。
64-1
どれくらいの時間が経ったのだろう?
どこか自分との折り合いをつけたのか、少女は泣き止み、ロザリーに寄りかかる様に、ただ茫然と立ち尽くしていた。
扉の向こうに置いてきてしまったもの・・・
それはきっと、暖かかった記憶、そしてぬくもり。
全てを冷たく、固く、封印してしまったかような鉄の扉。

ロザリー
-私はまた...あの時のように...この子の全てを奪ってしまったのだろか...?-






すると聞き覚えのある声が、微かに耳に入ってきた。

ロザリーはゆっくりと起き上がると、黙り込んでしまった少女を再度抱え階段を上った。
65
二階に戻ると、帝国軍の鎧を着こんだマウリシオの姿が目に入った。
グリムが驚きの表情を見せている。

グリム
あ、あんたっ!?無事だったのかっ!?
66
マウリシオ
『やっと見つけたぞぉ~』

マウリシオは、安堵し言葉を発した。

ロザリー
『マウリシオ...なぜここに?』

外出禁止令が出されている。
一旦城外に出た者は中には入れてもらえない。
魔術師でもない彼が外に出ているという事は・・・

マウリシオ
『お前を探していたんだっ!』

ロザリー
『また戻れるの?』

彼は首を横に振る。

マウリシオ
『いや、我々救援隊の退去命令が出た』

ロザリー
『え?』
67
マウリシオ
『土地の者でない者は、国外に退去しないといけないんだ』

ロザリー
『そんなっ!まだ病人がいるのよ!』

マウリシオ
『どのみち我々は、町に戻れない...』

ロザリー
『どうしてっ!?』

彼は深刻な表情をみせつつも、一呼吸してから答えた。

マウリシオ
『病人達の容体が急変した。
化け物のようになって町中で暴れまわっている。
それだけじゃない。
傭兵崩れが、この混乱に乗じて攻め込んで来たんだ』
68
彼女は唖然とし、両膝を床に着いてしまった。

ロザリー
『そ、そんな...』

マウリシオ
『もう...我々には打つ手がないんだよ...』

床に座り込んだロザリーに、マウリシオは悔しい表情を浮かべる事しかできなかった。
69
マウリシオ
『その子も置いていけ...地元の子だ...』

正しい事だと言い聞かせても、残酷な事を口にしている事も理解できた。
70
だが彼女は言った。

ロザリー
嫌よっ!!!絶対嫌っ!!

マウリシオ
『国境で検閲がある。
どのみちその子は越える事ができない』

ロザリー
嫌よっ!!!
71
ロザリーは唇を噛みしめ、端から血を流しながらも、威嚇するかのような目つきで訴えた。
大切な物を奪われまいと、必死で抵抗する子供の様に。

マウリシオは、その表情に憐みしか感じ取れなかった。
次の瞬間、彼女の二の腕を強く掴み、無理やり建物の外に引っ張り出した。
72
グリム
『お、おい...我々はどうなるんだ?』

その言葉を遮るように、外にいた帝国兵が彼を押し戻し、ドアを閉めてしまった。
73
マウリシオ
誰も助けられなんだよっ!ロザリーっ!!

聞き分けの無い子供を叱りつけるように、マウリシオは怒鳴った。

ロザリー
この子は発症してないわ!もししていても私が必ず治す!

マウリシオ
その子は病気持ちだっ!
得体の知れない病を、帝国領土に持ち込んだとなれば、お前は重罪を犯す事になるんだぞ!
仮に逃げ延びたとしても、今後お前は一生追われる羽目になる!
お前一人ならまだしも、そんな子供を抱えてどうやって生きていくつもりなんだっ!?

ロザリー
私が育てるっ!

マウリシオ
お前の子供じゃないだろうっ!!!

二人の激しい言い争いは、後ろに控えた兵士さえ圧倒し、やり切れない思いを与えた。
74
少女を捕られまいと、強く抱きしめた。
小さな肩に顔を蹲(うず)める。

ロザリー
-この子を救わなければ、私は救われない。
殺しだけしか取り得のない私なんか認めたくない-

”もう二度と間違いを犯すまい”

彼女の体は小刻みに震えていた。
75
マウリシオ
『諦めろロザリー...その子は置いていくんだ...』

彼は子供を受け取ろうと両手を差し出した。
だがその手は、罪悪感で明らかに震えている。
自分でも意識していなかった。

ロザリー
『あの時...』

マウリシオ
『え?』

ロザリー
『あの時、私は殺してしまった...この子は渡さない...この子を渡してたまるか...』

マウリシオには、ロザリーの呟きが良く聞き取れなかった。
気がふれて...そう表現するしかなかった。
76
辺りの静寂を掻き消すように、雨が降り始めた。






76-1
マウリシオ
『さぁ、渡すんだ、ロザリー』

ロザリー
嫌よっ!!!

マウリシオを鋭く睨みつけ、腹の底から大声で抵抗した。
77
ロザリー
この子を救えなかったら!私は一生後悔するっ!!

彼女の両目に涙が溢れていた。
それはまるで、助けてくれと言わんばかりに...

その涙は、いつもの強情で頑固なロザリーとは別なモノに見えた。
強気な態度や論理的な返答ではなく、只のワガママ...

マウリシオ
-いや違う...そうか...そう言う事か-

ようやくマウリシオにも理解できた。
ロザリーが背負い続けていた十字架を。
78
彼は頭を抱え、黙り込んでしまった。
しばしの空虚な時間が流れる。






78-1
そして認めた。
自分では止められないと...

マウリシオ
『検閲は何とかする...だがその後の面倒はみられない...それでもいいのか?』
79
ロザリーは満足そうな笑みを見せると、何も言わず首を縦に振った。






80
ロザリー
『その後は、ナディアを連れてひたすら旅を続けたわ。
私達が安全に暮らせる場所を探して。
色んな事があったわねぇ...
この耳を切り落とそうと思ったこともあったのよ。
でもナディアが止めてくれた...』

ロザリーは過去に起きた壮絶な出来事を、笑顔を交えて語った。

一方のリディアは、ナディアの過去をこの時初めて知った。

ハイロックの出身だとは聞いていたが、それ以外の事を聞いた事はない。
寧ろリディア自身、彼女の過去について聞いたことは一度もなかった。

従者に任命され後、彼女の行動は様々な不安を駆り立てた。
世間知らずで、子供のように無邪気でいつも明るく甘えん坊な性格。

自分の先々の事を考えれば、彼女の過去や性格など、特に問題ではないからである。
仕事さえ滞りなくこなしていれば、やがて自分にも転機が訪れる。
ただそう思っていた。

ドラゴンボーンであること、アルドゥインを倒したこと、アークメイジに任命されたこと、ギルドマスターに昇進したこと。
ナディアは、自分が想像していたよりも、遥かに超えた肩書を多数持つようになる。
やがて自分の彼女への見方が変化していった。
81 81-3
ロザリー
『1年くらいかしらねぇ...ようやく落ち着ける場所を見つけたのよ^^
14年間...あの子と一緒に生活したわ』

彼女は微笑み、ひとしきり終えてホッとした表情を見せている。
18 81-1
ポエット
『あの・・・聞いて良いですか?』

ロザリーは『どうぞ^^』と笑顔で返す。

ポエット
『その後、ロザリーさんとナディアは発病したんですか?』

彼女は恐る恐る口にした。

ロザリー
『いいえ^^健康体そのものよ。他の人にも影響はなかったしね^^』

ポエット
『そうですか^^』

81-2
リディア
『リーチでの出来事は、私も少し知ってます』

ロザリーはリディアに目線を向けた。

リディア
『後に帝国が介入して、街一つ焼け野原にしたと。
でも...みんなオカシイって口々に言ってました。
傭兵達が、領主を殺し町を占領したからって...焼け野原にするなんて...』

ロザリーは悲しげな表情を浮かべた。

ポエット
『帝国は...もみ消したんですね』

重苦しい空気が漂ってしまった。

リディア
『す、すみませんっ!余計なことを話してしまいました><;』
81 81-3
ロザリー
『いいのよ^^気にしないで^^』

ロザリーがリディアを宥めてくれた。

ロザリー
『あの後の事は、私もナディアに付きっ切りだったから、世間の事なんて興味も持てなかったしね。
むしろ教えてくれて感謝したいわ^^』

リディアは、放任主義のナディアと共感していた自分が恥ずかしくなった。
81-4 83
ロザリー
『ほおぉぉぉぉんとに手の掛かる子でね^^;
ママーママーって...す~ぐ泣きじゃくるのよぉ^^;』

彼女の視線は過去のナディアを思い浮かべている。
その顔は、微笑ましい母親の顔をしていた。
82
ロザリー
『ある時、シチューが食べたいって...でも、シチューなんて作った事もないもんだから、
知っている人に教えてもらって、なんとかそれらしい物を作ったんだけど...
”ママのシチューじゃなぁあぁ―――い!”て、器ごと床に投げ捨てられて、またワンワン泣き出すのよね^^;』

リディアとポエットも気まずい気持ちが込み上げた。
幼い頃の自分達にも、似たような事があったような・・・
81-4 83
ロザリー
『ホントに、どこかの山奥に捨ててこようと何度思ったことかw』

二人は含み笑いをしてしまった。

ロザリー
『どうせ実の母親じゃないんだしってね...でも、もう駄目だぁ~って思った時に、私の母が昔作ってくれた”おにぎり”を思い出したのよ^^』
84
二人はハッと気づいた。

ロザリー
『それを無言で出してあげたら、もぉ~夢中になって食べてくれてね^^
やっと心が通じたような気がして...嬉しかったわ^^
”おかわりちょうだい!”って言われた時は...泣きそうだったわね^^』

ここが原点なのか!!!と二人は思った。

ロザリー
『おにぎりって知ってる?
シロディールじゃぁ結構ポピュラーなのよ^^
なんでも元は東方の...』

リディア
『よく知ってます!!』

リディアは思わず口走ってしまった。

ロザリー
『あら...^^;』

リディア
『今でも好物ですから^^』

ロザリー
『そう^^』
85
ロザリー
『でも、あの子...未だに私のこと”ママ”って呼んでくれたことが無いのよね^^;
あの子の母親を手に掛けたのは私...きっと、まだどこかで許せないのよね...』

彼女はどこか物悲しさを見せ、下を向いてしまった。
二人も喉に溜まった唾を飲み込み、押し黙ってしまった。
86
そこに丁度良く、ナディアが子供達を連れて帰って来た。

ナディア
『たぁだいまぁ~なのだぁ~^^ノ』

いつもの元気な声が、三人の目線をナディアに向かせた。

ナディア
『ルシア!ソフィ!』

ロザリーは笑顔を向ける。

ナディア
この人がママの”ママ”なのだぁ~^^ノ

ルシア
『ワァ~~イ(*^▽^*)』

ソフィ
『キレェ~~(´▽`*)』
87
親心子知らず・・・




ポチットお願いしますm(_ _)m



<備考>

◎ロザリーについて
Nadiaは今話において、ロザリー作成者であるOkame様に【彼女の背景設定から表情の汚れに至るまで】事前にご許可を頂きました。
彼女の使用方法及び美観を損ねる点につきましては、不快に思われる方も多々おられるかと思われますがご了承ください。
作成者であられるOkame様には重ねてお礼申し上げますm(_ _)m
今後も彼女を多岐に渡り、使用させていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

なお、作中の【マスターウィザード】という称号は、それなりの肩書を持たせただけの物ですのでNadiaのオリジナルです。
またレースが設定されていなかったので、尖った耳からエルフといたしました。

ビヨンドリーチ
ハイ・ロックの東部に位置する、リーチ地方を舞台とした大型MOD。
今作の舞台となるマップです。

主にアーニマ周辺を使用させていただきました。
物語の背景から過去の出来事を抽出しているので、MOD事態のストーリーやクエストとは直接には関わりはありません。
ただし、【アーニマ】という街の名前は、領主であるモーティフェインが勝手に名前を変えてしまっているので、元々の街の名前である【レイブン・スプリングス】を使用しています。

Nadia的にこのMODは非常に内容の濃い作品だと思っております。
第四紀201年現在、スカイリムでアルドゥインと内戦の騒動の中、他国であるハイ・ロックを上手く表現している気がします。
ハイ・ロックは貴族社会が主となっているようで、ある意味スカイリムよりも格差が激しいと思われます。
さらに独自の文化をもっており、大小様々な王国を内包しているようです。

現在の最新バージョンは3.98となってますが、まだ未完成の部分もあるので、これからも楽しみなMODです。

◎フォーローン
ビヨンドリーチに含まれているアーニマ周辺の町です。

◎ドラゴンスター傭兵
ハンマーフェルとハイ・ロックとの国境境に、ドラゴンスターという地名があるのを確認しました。
アルドメリとの戦後の話なので、本編のようになっているのでは?という事にしています。
ビヨンドリーチにも実際に出てくるのですが、彼らのバックストーリーは不明です。

◎夜母
TESシリーズに出てくる女性のミイラ。
【闇の一党】という集団がおり、彼らは暗殺業を生業としている。
ゲーム中には【黒き聖餐】という儀式がある。
誰かを暗殺して欲しいという者が、この儀式を行うと【夜母】に伝わり、そして【夜母】から【聞こえし者】に伝わり暗殺が行われる。
ちなみに【夜母】は、既に死んでいるので声を発することができない。
できないので精神?頭の中?心?どうやってか知らないが、【聞こえし者】だけには伝える事ができる。
この【聞こえし者】も稀な存在で、いつ、どこで、誰になるのかはわからない。

◎西の歪み
TES2のDaggerfallを舞台にした出来事。

第三紀 417年に起きた【平和の奇跡】の別名。
イリアック湾で何かが爆発。
一夜にして44の国が4つの国だけを残して壊滅した出来事。
以後20年間、四つの国は落ち着いていたが、オルシニウムのオークが反乱を起こし帝国が介入することに。

Nadiaは、オブリビオンからのプレイヤーなので詳しい所はよくわかりませんw
すいませんw
Daggerfallには複数のエンディングがあるらしく、その内の一つで帝国軍が介入する結果を持ってきました。

マウリシオ
老軍人マウリシオ軍曹フォロワー
本名:マウリシオ・ドミンゴ・デ・アヴィラ
ブラジル空軍の軍曹で、2015年4月10日に亡くなった方だそうです。
享年67歳。実在の人物です。
作成者様のお父上とのこと。

SOSでは、ロザリーの元戦友として出演してもらいました。
Nadiaは以前よりこのMODのこと知っていたのですが、どこかで使えたらなと考えておりました。
表情や貫禄及び年齢などを考慮し、ロザリーの相棒役を務めるには最適なフォロワーさんと判断し、使用させていただきました。
彼に参加していただけたことは、本当に喜ばしい限りです。
今後ももしかすると出演していだたくかもしれません。

ご冥福をお祈りいたします。

◎マッドマンと回復薬
毒と薬
【マッドマン】は筆者が考えたオリジナルの名前です。
適当にチョコチョコ錬金していたら図のような毒ができました。
10秒間近くの者を見境なく攻撃するという点から、オブリビオンのデイドラロードである【シェオゴラス】から取りました。
シェオゴラスは別名【マッドマン】と呼ばれています。
450ポイントの毒ダメージは無視してくださいw
回復薬もチョコチョコやってたらできました。

◎ストルス・エムカイ島
ハンマーフェルとサマーセット島との間にある小さな島。
この島で二次条約という条約を結ぶことで、一時終戦という形になった。
二次条約の内容は不明。

◎アーケイ
埋葬と葬儀の神、輪廻の神、色々とあるようだが、TESにおける九大神及び八大神の一人。
オブリビオンにおける存在がデイドラに対し、彼らはエイドラと呼ばれ、オブリビオン界の外側のエセリウスという世界に住んでいる。

◎ウェストリーチでの帝国軍の権威について
今話では、第四紀175年に終戦した大戦以降のハイロックが舞台になっています。
大戦以降のハイロックは、基本的には帝国領土となってはいますが、この国は昔から内戦が絶えない地域だったとされており、それは統治された後になっても続いていたようです。
その証拠が、第三紀の417年に起きた『西の歪み』であり、一晩のうちに44もあった国が4つに纏まったという事象なのですが・・・

ハイロックは厳格な貴族社会で成り立っているようです。
この貴族社会とは、王より爵位を与えられると同時に、領土も与えられるといった構図の事を言います。
爵位を与えられた貴族は領主となり、一定の領土を治める頭になります。
おそらくこれが内戦・紛争の火種になっていたのでは?とナディアは解釈しました。

貴族社会が細かく乱立すると、平民と貴族との間に大きな隔たりが作られます。
貴(とうと)いと言うくらいなので、当然差別が生まれます。
差別が生まれると、自然と下の者に不満が広がっていきます。
貴族社会に対する反乱がおこり、やがてその火種が大きくなると、革命がおこります。
中にはそういう社会に対して不満を持ち、外側から内側を潰そうとする組織も出てきます。
(ウィッチマンなどの先住民による反乱、あるいはオルシ二ウムのオーク達)
また、与えられる領地にも限度が出てくると思うので、やがてお家騒動にまで発展しかねません。

これが、ハイ・ロックのブレトンの社会だと思われます。
今話でマウリシオが、『ここじゃ帝国軍もそれほど影響力を持たないんだぞっ!』と書き加えたのは、
いかに統治する者であっても、他国の文化や慣習に対してメスを入れる事は難しいという意味で加えました。




ポチットお願いしますm(_ _)m